写真で読み解くニュース英語 #22 Global South
世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?
このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!
最近よく聞く「グローバルサウス」とは?
COP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)の閉会本会議で演説するインドの Chandni Raina(チャンドニ・ライナ)代表。バクー、アゼルバイジャン。2024年11月24日。ロイター/アフロ
近年、国際関係において Global South「グローバルサウス」という言葉を目や耳にすることが多くなりました。この用語自体は20世紀半ばから存在していますが、2010年代に入り頻繁に使われるようになっています。Global South は、従来の emerging countries「新興国」や Third World「第三世界」の新しい呼び方なのでしょうか? また、developed / industrialized nations「先進/工業国」と developing nations「開発途上国」の関係や、先進国と開発途上国の経済格差を指す North-South issue「南北問題」と違うのでしょうか?
Global South は多角的な視点を含む概念で、特定の国家グループを指すものではありません。一般的には中南米、アフリカ、中東、アジア、オセアニアなどにおいて、economic globalization「経済のグローバル化」から取り残され、development「開発」や economic growth「経済成長」の面でさまざまな課題を抱える国や地域とされています。また、世界で ethnic conflict「民族紛争」、immigrant「(外国からの)移民」、food crisis「食糧危機」、infectious disease「感染症」などの cross-border issue「越境型の問題」が増えるにつれ、従来の国家を単位とする考え方が現実と合わなくなってきました。これらの諸問題が Southern Hemisphere「南半球」に多いことも 、Global South という呼称の背景にあります。
ただし、Global South の「南」は単なる地理的な概念ではありません。大まかには、 第二次世界大戦後に東西いずれの陣営にも属さない「第三世界」の諸国が1961年に設立した Non-Aligned Movement (NAM)「非同盟運動」(120カ国が参加)や、国連に加盟する途上国が構成する G77「77カ国グループ」 (現在134カ国)などと一致するもので、国際社会で一定の政治的発言力を得ています。一方、Global South に対してグローバル化の波に乗って経済発展してきた北半球中心の先進社会を、Global North「グローバルノース」と呼んで対比することもあります。
米バージニア大学の Anne Garland Mahler(アン・ガーランド・マーラー)准教授は、Global South には3つの側面があるとしました。1) Cold War「冷戦」後の「第三世界」に代わる呼称、2) 資本のグローバリゼーションによってマイナスの影響を被った人々や空間、3) global capitalism「グローバル資本主義」への服従を強いられている人々の政治的連帯を指す呼称です。これに加えて、歴史的な視点も強調しておかねばなりません。Global South にあてはまる国や地域の多くは、かつて西欧の列強による colonial rule「植民地支配」の下で exploit「搾取」され、discrimination「差別」や inequality「不平等」を強いられてきました。これが少なからず今日の世界における富の偏在や紛争の火種となっていることは想像に難くありません。実際、アフリカの民族紛争の多くは、その原因を西欧による植民地統治にさかのぼることができます。
直近の国際舞台で Global South の存在感を際立たせたのが、11月にアゼルバイジャンの首都バクーで開催された「国連気候変動枠組条約第29回締約国会議」、いわゆる COP29(COP=Conference of Parties「締約国会議」)でした。会議では、global warming「地球温暖化」対策として先進国から途上国に拠出する資金を、現在の目標である年間1000億ドルから、2035年までに少なくとも年間3000億ドル(約46兆円)に増やすことが合意されましたが、Global South の主要国であるインドの Chandni Raina(チャンドニ・ライナ)代表は、これを paltry sum「微々たる金額」だとして不満を述べました。この他にも会議では多くの場面で両世界の confrontation「対立」によって協議が難航しましたが、この構図から浮き彫りになるのは、Global South の協力なしに温暖化対策は進まないという現実です。日本の資源エネルギー庁の統計では、世界で毎年排出される greenhouse gas「温室効果ガス」のうち、近年では約3分の2が Global South を構成する新興国や途上国から排出されています。
また、2022年のロシアによるウクライナへの invasion「侵攻」も、Global South が世界経済や国際政治の場でより大きな発言権を得る転機となりました。侵攻後に西側諸国は一斉にロシアを非難し、現在もロシアは欧米を中心とする国際社会から isolated「孤立して」いますが、Global South の多くは西側主導の対ロシア非難決議には同調しませんでした。反対に、Global South の中でも特に国力を高めているインドは、ロシアとの経済関係を深めて crude oil「原油」や natural gas「天然ガス」などのエネルギー輸入を増大させ、経済的恩恵を享受しています。西側による対ロシア economic sanction「経済制裁」が想定したような効果をあげていない背景には、こうした動きがあると考えられています。皮肉にも、ロシアを非難する欧州はロシアから安価に天然ガスなどを輸入していたことから、エネルギー政策の見直しを迫られることになりました。
近年注目されているのは、欧米や日本などの民主主義陣営と中国やロシアなどの権威主義陣営が、ともに Global South へのアプローチを強化している点です。例えば、QUAD(Quadrilateral Security Dialogue)「日米豪印戦略対話」と呼ばれる安保・経済協力の枠組みは、日米豪がインドを取り込む形で発展してきました。また、従来の Asia-Pacific「アジア・太平洋」に代えて、Indo-Pacific「インド・太平洋」という用語が外交の場面で盛んに使われるようになっています。これらは、インドを重視することで中国の台頭をけん制する目的があります。一方の中国やロシアは、BRICS(Brazil, Russia, India, China, South Africa の頭文字をまとめたもの)としての結束を訴え、10月にはロシアでBRICS首脳会議を開催しました。BRICSの枠組みは拡大しており、従来の5カ国に加え、2024年1月からアラブ首長国連邦、イラン、エチオピア、エジプトの4カ国が参加しています。今やBRICSの人口は世界の約45%を占め、経済規模は約28%を占めるとされています。
Global South を巻き込んだ世界のパワーバランスを考える上では、今後のアメリカの動向が重要になるでしょう。11月の大統領選挙では、共和党の Donald Trump(ドナルド・トランプ)候補が民主党の Kamala Harris(カマラ・ハリス)候補を破り、二度目の大統領職に返り咲くことが決まりました。トランプ氏の America First「アメリカ第一主義」や、Make America Great Again (MAGA)「アメリカを再び偉大な国に」などのスローガンから考えれば、彼は Global South に対する長期的で戦略的な相互発展を推進するよりも、より直接的にアメリカを利する政策に重点を置くものとみられます。具体的には、bilateral relationship「二国間関係」において経済面で優位な条件を求めたり、安全保障面でアメリカの負担軽減を関係国に迫ったりする可能性があります。
もしアメリカが inward-looking「内向きの」政策にシフトするなら、それは日本にとって独自に Global South へのアプローチを強化する好機となるかもしれません。日本は Official Development Assistance (ODA)「政府開発援助」の主要な支援国ですが、質の高いインフラ支援によって他の支援国とは一線を画してきました。また、environment「環境」、technology「技術」、public health「公衆衛生」、education「教育」、disaster preparedness「防災」などにおける intangible support「目に見えない支援」で独自のポジションを確立しています。Global South の多くはこれらの課題に直面しているため、こうした分野での一層の支援が国際社会における日本の地位向上につながると考えられます。
著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙The Japan Times元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを担当後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。