世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?

このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!

「災害大国」に必要な「防災」とは?

能登半島地震による火災で焼け落ちた「朝市通り」を歩く男性。石川県輪島市。2024年1月4日。ロイター/アフロ

2024年、私たちはかつてない頻度で大きな natural disaster「自然災害」を目の当たりにしています。元日の Noto Peninsula Earthquake「能登半島地震」では、maximum seismic intensity「最大震度」7の揺れと tsunami「津波」の被害が発生しました。2月下旬には千葉県東方沖で earthquake swarm「群発地震」が続き、slow slip「ゆっくりすべり、スロースリップ」という専門用語を知った方も多いでしょう。また、4月3日には沖縄に近い台湾東部沖で最大震度6強の地震が観測され、建物が collapse「倒壊する」映像が世界に報じられました。その後、4月17日に大分県と愛媛県に挟まれた豊後水道(ぶんごすいどう)で最大震度6弱の地震が発生しています。長きにわたって Nankai Trough「南海トラフ」地震や earthquake right under Tokyo「首都直下地震」が懸念される中で、私たちはさらに防災意識を高めて災害に備える必要があります。

「防災」の英語表現について、かつては disaster prevention「災害の防止」という直訳的な用語が多用されましたが、自然災害の発生そのものを人間の力で防ぐことはできないという観点から、近年では disaster preparedness「災害への備え」を「防災」として使うことが増えています。また、災害の発生から復興までを総合的に管理する disaster management「災害管理」や、被害の拡大を食い止める事前対策としての disaster mitigation「減災」などの用語も加わって、現在の「防災」の概念は多岐にわたっています。

大地震などの自然災害に備えるために、私たちには何ができるのでしょうか? まずは家具の固定など身の安全を確保する手段を講じること、次に被害を受けた電気・ガス・水道などの lifelines「ライフライン」の復旧までをしのぐために、一定量の水や食糧を stockpile「備蓄する」ことです。また自宅が被災することを想定して、日頃から自治体が作成する hazard map「災害予測地図、ハザードマップ」を確認し、evacuation shelter「避難所」の場所を把握しておくことも大切です。災害発生時の状況を想定することは、無用な混乱や物資の panic buying「買い占め」を防ぎ、ソーシャルメディアなどで拡散される false information「虚偽情報、デマ」に惑わされないことにもつながります。こうした対策では、個人レベルでの self-help「自助」や、地域コミュニティーによる mutual help「共助」が重要になります。

しかし、太平洋沿岸の広範囲で被害が想定される南海トラフ地震や、国の政治経済の中枢に被害を及ぼしかねない首都直下地震では、個人や近隣レベルでできることは限られています。そのような場合、大規模な public help「公助」なしには災害からの復旧や復興は困難です。日本では、国の Basic Act on Disaster Management「災害対策基本法」の下で自治体による「地域防災計画」が策定されています。例えば東京都は、震災に加えて wind and water damage「風水害」、volcanic eruption「火山噴火」、nuclear accident「原子力事故」などのシナリオを想定し、それぞれに行政が取り得る対策を講じています。財政面では、3月に成立した都の2024年度予算の8兆円を超える一般会計のうち、防災関連予算に1割近い7600億円が計上されました。

ただ、すべての自治体に東京都のような潤沢な財源があるわけではありません。例えば2023年の文部科学省による調査では、老朽化した公立小中学校の校舎の earthquake resistance「耐震性」を高める工事は全国で99.8%にまで進んだものの、耐震工事が手つかずの校舎が北海道、愛媛県、山口県の順に多く見られました。皮肉にも、北海道では2018年に胆振(いぶり)東部で震度7の地震が、愛媛県では今年4月に震度6弱の地震が発生しています。また、住宅の耐震化工事を subsidy「補助金」で後押しするのも行政の役割ですが、能登半島地震でも明らかになったように、過疎地では aging population「高齢化」のために工事費用をまかなえる住民が都市部に比べて少ないという問題もあります。自然災害はどこでも起こり得ることを考えると、地方の高齢化と depopulation「過疎化」は災害対策にとって大きな問題となっています。

このような地域格差を埋めるべく、政府は national resilience program「国土強靭化計画」を推進し、自治体による地域防災計画を包括する国の災害対策の大きな柱としています。resilience とは「回復力、立ち直る力」で、「国土強靭化」とは被害が出た後に対応するよりも事前の備えとして災害に強いインフラを整備することで人命を最大限に守り、経済社会が致命的な損害を受けずに復旧できる体制づくりを指します。これは先ほど紹介した「減災」の考え方につながります。2011年の Great East Japan Earthquake「東日本大震災」の経験を教訓とし、2013年に「国土強靭化基本法」が成立しました。protection of human lives「人命の保護」を始めとする7項目の基本方針に加えて年次計画や地域計画を策定し、日本全体で常に大規模な自然災害に備える体制を目指しています。

しかし、ここにも「費用」という災害対策に重くのしかかる問題を垣間見ることができます。Cabinet Office「内閣府」は各省庁の毎年度の防災関係予算をまとめて White Paper on Disaster Management「防災白書」で発表しています。2023年度は約1兆6000億円でしたが、東京新聞が1月にまとめた記事によれば、防災予算の推移には一定のパターンがあるといいます。大規模災害が発生した後に予算は急増し、それから次の災害まで減少していくというものです。実際、Great Hanshin-Awaji Earthquake「阪神淡路大震災」後の1995年度には過去最多の7兆5000億円が計上され、次の山となる東日本大震災後の2011年度までは総じて減少しました。近年は3.11後の下降局面にありますが、その記事によると、能登半島地震後の来年度には予算が再び増加する可能性が高いとしています。見方によっては「喉元過ぎれば熱さを忘れる」、つまり英語で言う Danger past, God forgotten「危険は過ぎ去り、神は忘れられる(=苦しい時の神頼み)」のような状態にあるのかもしれません。

災害対策においては、このような思考に陥ることが一番の pitfall「落とし穴」だと考えます。私たちは大きな自然災害のニュースを見るたび、自然の猛威の前で人間は無力だと思い知らされますが、その感覚を繰り返し体験することで脅威に対して鈍感になってしまう cry-wolf syndrome「おおかみ少年症候群」の状態に陥ることを避ける必要があります。日本は世界に知られる earthquake-prone country「地震多発国」であると同時に、earthquake-resilient country「地震に強い国」です。災害対策にはさまざまな制約があるにせよ、人命の保護や災害に弱い地域に重点的に対策を講じることを怠ってはなりません。ひとつでも多くの命が災害で失われないように備えるのは、今を共に生きる私たちの責務だと考えます。

著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙The Japan Times元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを担当後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。