世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?

このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!

改めて問われる「入国管理」の考え方

2021年に名古屋入管で収監中に亡くなったウィシュマさんの2人の妹たち(左から)と関係者たちによる、「入管法改悪案」の廃案を求める記者会見の様子。2023年4月6日。東京。 写真:つのだよしお / アフロ

Nagoya Immigration Bureau「名古屋出入国在留管理局」(以下、「入管」)で収容中だったスリランカ人女性の Wishma Sandamali(ウィシュマ・サンダマリ)さんが2021年3月に死亡した問題で、彼女の死亡前の様子を記録した security camera footage「監視カメラ映像」が今年4月に公開されました。ウィシュマさんの遺族は国に対して damages lawsuit「損害賠償請求訴訟」を提起し、入管が必要な医療を提供しなかったのが死亡の原因だと訴えています。今月の法廷では、収容中の監視カメラに映った5時間分の映像が公開されることが決まっています。

ウィシュマさんは日本語学校への留学生として2017年に来日しましたが、その後、同居人による domestic violence「家庭内暴力・DV」を受け学校を休みがちになり、学費の支払いも困難になるなどの事情で学校を除籍され、undocumented「(入国・滞在に必要な)書類を持たない」状態となりました。2020年8月に detained「収容された」後、翌年1月には体重が激減するなど体調が悪化したにもかかわらず、入管は適切な医療処置を施さなかったとされています。そして同年3月に搬送先の病院で死亡が確認されました。

以上の問題をはじめとして、日本の immigration control「入国管理」政策については、不法滞在者の human rights protection「人権保護」の観点から多くの疑問や批判があります。実際、日本の入国管理政策は世界的に見ても厳しいものです。外国人に resident status「在留資格」を与えるかどうかは入管当局の判断ですが、国家による「主権行為」という名のもとに、在留期間や許可・不許可の決定プロセスが非常に不明瞭なものとなっています。不法滞在者の人権保護や収容に関する手続きについても同様です。それゆえ、入管の“ブラックボックス化”を防ぐことはとても重要なのです。

先日国会では、強制送還の対象となった外国人への対応について大きな動きがありました。Immigration Control and Refugee Recognition Act「出入国管理及び難民認定法」(いわゆる入管法)の改正案について議論されていましたが、6月9日、参議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党や日本維新の会などの賛成多数で可決・成立しました。

現行法では overstayer「残留期間超過者」は deportation「強制送還」前に入管施設に収容するのが原則ですが、改正案では収容をめぐる批判に対応するかたちで、Immigration Services Agency of Japan「出入国在留管理庁」が認めた監理人をつけることを条件に施設外での生活を認めます。これまでにも provisional release「仮放免」措置がありましたが、健康上・人道上の理由に限られるなど限定的なものでした。一方で、従来は回数無制限だった refugee application「難民認定申請」が原則2回までに制限されるため、3回目以降の申請で難民などに認定するべき「相当の理由がある資料」を入管に提出しなければ、送還されてしまいます。この背景には、一部の難民申請の繰り返しが、単なる送還を免れる試みであると政府が問題視している点があります。しかし、この法改正によって本来認定されるべき人が難民と認められずに強制送還され、自国で persecute「迫害」される危険性が指摘されています。

従来から日本は a country harsh on refugees「難民に厳しい国」として知られています。政府の発表では、2022年の難民認定数は過去最多の202人でしたが、これは2021年8月のアフガニスタン政変という特殊な事情を反映した数字によるものです。そのうちの147人はアフガニスタン出身で、現地の日本大使館の元職員やその家族が多数を占めました。この要因を除けば、認定数は欧米と比べ極めて低い水準にとどまり、不認定は1万人を超えました。このことからも、日本の難民政策が根本的に転換しつつあるとは考えにくい状況です。

日本における外国人の人権に関して、入国管理と並んで大きな問題となってきたのが、Technical Intern Training Program「技能実習制度」です。これまでも、技能実習生が cheap source of labor「安い労働力」として exploited「搾取される」ケースが多数報告されています。政府の有識者会議は、現行の制度を廃止した上で、人材確保の面からも中長期的な滞在を可能にし、就労先の変更も認めるよう緩和する新制度への移行を求めています。有識者会議はこの秋に最終報告書を提出する予定ですが、この制度改正が技能実習制度の単なる「衣替え」に終わらないか注視する必要があります。

日本では population decline「人口減少」が進む中で、外国人労働者の受け入れが社会の維持に必要不可欠となっています。さらに難民や immigrant「移民」に対しても、人権に配慮した受け入れ態勢を整え、彼らを一時的な滞在者ではなく、共に生きる市民として捉え直す必要に迫られています。

著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙 The Japan Times 元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを担当後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。