世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?

このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!

経済的な自立を手に入れて、自由な生き方を目指す

「経済的自立、早期退職」して、ライフワークに残りの人生を費やす……夢のような生き方にはそれなりの覚悟とリスクも伴いそうだ。(写真はイメージです)

最近、FIRE という言葉をよく耳にします。「炎」の fire ではなく、Financial Independence, Retire Early の頭文字をとったもので、「経済的自立、早期退職」を意味します。若いうちに asset building「資産形成」を始めて、運用益で暮らしていく道筋が立った時点で早期退職をし、残りの人生を自分がやりたいことに費やすというライフスタイルです。

こうした生き方を目指す潮流は FIRE movement「FIRE運動」と呼ばれ、アメリカから始まってヨーロッパや日本にも広がりつつあります。理想的には、unearned income「不労所得」で living expense「生活費」をまかなえるようになると、earned income「勤労所得」は二次的なものとなり、定年よりもずいぶん早くリタイヤすることができます。その後は労働から自分を解放してライフワークや趣味に没頭したり、また将来の介護がある人は余裕をもって備えることができるというわけです。

ここまでの成功を収めずとも、barista FIRE「バリスタFIRE」(サイドFIRE)を目標とするライフスタイルもあります。早期退職後に資産運用で生活費をすべてカバーできなくても、コーヒーショップで働く barista「バリスタ」のような part-time job「パート仕事」と組み合わせることからこう呼ばれています。ちなみに日本では、side job「副業」により生活費を補填するタイプのライフスタイルとして、「サイドFIRE」と呼ぶことが一般的です。

では、FIRE を実現するには何をすればよいのでしょうか? financial planning「ファイナンシャル・プランニング(FP)」の世界では、FIRE 実現へのさまざまな手引きやガイドラインが紹介されています。ここでは具体的には触れませんが、投資資金を作るために1)収入増、2)支出減、3)貯蓄率の最大化、を図ることが基本になります。

FIRE は Millennials「ミレニアル世代」(1980年から1995年の間に生まれた世代)や Generation Z「Z世代」(1996年から2015年の間に生まれた世代)の価値観との親和性が高いと言われます。インターネットの普及とともに成長してきた彼らは、大量の情報を読み解き活用する力に長けています。また彼らは、無駄を減らし、本当に必要な最小限のものを選ぶことで生活の質を高める minimalist「ミニマリスト」の価値観に共感する世代でもあります。FIRE を目指す生活では、価値があるものにだけお金を使う傾向が強くなり、より少ないお金で暮らすようになります。

しかし、FIRE にはリスクが伴うことも知っておかねばなりません。超低金利の昨今では、deposit interest「貯蓄金利」を中心とする資産運用ではなく、investment return「投資運用益」が資産形成の主な手段になるはずです。国内外の経済情勢によって大きな影響を受ける可能性があり、investment vehicle「投資手段」を誤れば資産を減らすこともあります。政府が推す NISA や iDeCo などの比較的安定的なものから crypto-assets「暗号資産」(ビットコインなどの仮想通貨)のような高リスクなものまでありますが、絶えず情報を収集して投資判断を行う必要があるでしょう。

さらに広い視点で考えたとき、若い世代の「収入増」のためには、日本企業の賃金体系の変更が必要になるでしょう。一般的に若い間は低賃金であり、FIRE に必要な高い貯蓄率を達成することは大きなハードルになります。日本ではバブル崩壊後30年にわたってほとんど賃金が増えておらず、今後の見通しもあまり明るいものではありません。

その状況で FIRE を目指す人々が投資のための資産を形成しようとすると、支出を減らして預金額を増やすしかなく、彼らの家計の大幅な見直しがマクロ経済に悪影響を与えるかもしれません。結婚や出産を経て家庭を持つことは相当の支出を伴う一大イベントとなるため、disposable income「可処分所得」の最大化のために一生独身でいることを選ぶ人も増えています。このようなライフスタイルの変化が、日本に重くのしかかる少子化問題の解決をいっそう難しくしている面もあります。

日本は自由民主主義・資本主義経済の国であり、キャリアや経済状況を含めた個々の人生は自分で切り開くのが基本です。しかし、アメリカなどに比べて日本は実質的には社会主義的なシステムだと言われてきました。企業は福利厚生を含めた社会保障システムの一端を担い、正社員・終身雇用制度が、将来の経済的安定を約束するものとなっていました。

このような経済社会が崩壊しつつある今、FIRE などの知恵を使って自己防衛する必要性は高まっているでしょう。しかし、過去30年にわたる賃金の伸び悩みを解決できないまま、なし崩しに自助が謳われる昨今の世相には違和感を覚えます。将来を担う若い世代により多くの資源を注ぐよう、この国の financial planning を軌道修正していくことが政治には求められています。

著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙The Japan Times元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを担当後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。旬な時事英語を解説する「内藤陽介のサイバー英語塾」で情報発信中。