写真で読み解くニュース英語 #1 Omicron
世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?
このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!
(文:内藤陽介)
2022年波乱の幕開け、「オミクロン株」への冷静な対応を
コロナウイルスを予防するためにマスクを着用する女性が、変異種のオミクロン株について解説するパネルの前を通り過ぎる。2022年1月13日、東京。(AP/アフロ)
新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大を始めてから早くも2年が経ちました。筆者はコロナ禍の当初から、英語学習者向けにニュースを読み解くキーワードとなる単語やフレーズを各所で解説してきましたが、事態は長期化し、未だに出口が見えない状況です。これに伴い、押さえておくべき英語表現も増え続けています。
今回は、昨年末から猛威を振るい始めた「オミクロン株」に関するニュースから最新の英語表現を取り上げます。
Omicron とはギリシア語の15番目のアルファベットで、variant「変異株」と結びついて Omicron variant「オミクロン(変異)株」として使われます。これ以前の変異株には Alpha「アルファ」、Delta「デルタ」、Lambda「ラムダ」、Mu「ミュー」株などの呼称(いずれもギリシア語のアルファベットで表されている)が使われました。
昨年11月、世界保健機関(WHO)はオミクロン株を Variant of Concern (VOC)「懸念される変異株」に指定しました。これは前段階である Variant of Interest(VOI)「注目すべき変異株」よりもさらに深刻度を増したものです。
それ以降、ヨーロッパでは人々の行動制限を再び強化する動きが出てきました。この関連でよく使われるのが、reinstate「~を元に戻す」や、restriction「制限」です。reinstate restrictions on …「再び~への制限を加える」という形でよく出てきます。なぜ reinstateという単語を使うのかといえば、ヨーロッパでは以前にも厳しい lockdown「都市封鎖」が実施されたことが念頭にあるからです。
行動制限について、日本ではしばしば「自粛の要請」という言葉が使われますが、これは英語のロジックにはなじみにくいものです。self-restraint「自粛、自制」という単語はありますが、これは本来自分の意思で行うものであって、他に要請されるものではありません。request (someone) to exercise self-restraint「(人に)自粛を行うよう要請する」という英訳は可能ですが、欧米では政府からのこのような体の良い決まり文句には市民から強い抵抗を受けます。
年末年始を挟んで状況は悪化しています。1月初旬にアメリカでは新型コロナウイルスの1日あたりの感染者数が100万人を超えました。感染拡大の背景には、ワクチンを接種していてもウイルスに感染する breakthrough infection「ブレークスルー感染」が多数報告されていることが挙げられます。breakthrough の意味は「突破、打開」ですが、変異株が免疫を突破して感染を引き起こすこととしても使われます。
この変異株への対応として始まった対策の一つが、booster shot「ブースター接種」、つまりワクチンの効果を高めて持続させるための追加接種です。booster には医学用語で「追加免疫」という意味があり、shot は「注射、予防接種」を指します。shot と同義語の jab も覚えておきましょう。booster shot と booster jab はどちらも「ブースター接種」です。
ワクチン接種の動きに対して、健康上の懸念からこれを拒否する人々もいます。彼らは集団的に anti-vaxxer「ワクチン反対派」と呼ばれ、欧米では一定の社会的勢力を形成しています。anti- は「~に反対する、反~の」を表す接頭辞です。vaxxer のスペリングが少し特殊ですが、vax (=vaccine)+er から来たものです。
国内に目を向けてみれば、年初から沖縄県や山口県では米軍基地由来と考えられるオミクロン株による市中感染が拡大し、また全国的にも感染者数が急増しています。英語では「再び増加すること」を resurgence と呼びます。このコラムが読者の目に触れる頃にどのような状況になっているかは見通せません。政府はさらに対応を強化する構えですが、再び行動制限を求めれば経済へのさらなる悪影響が懸念されます。
波乱含みの2022年が始まりましたが、私たちがこの2年間の経験から学ぶべきは、fan fears 「恐怖を煽る」ことへの戒めだと考えます。fanは「煽る、扇動する」という動詞です。感染への恐怖の中で、アメリカではアジア系市民に対する嫌悪(ヘイト)が広がりました。日本では「自粛警察」と呼ばれる一部の市民による過剰な自粛の強要も見られました。コロナを闇雲に恐れたことが社会の分断を招いたことは否めません。これまでの暗中模索の感染対策の中で、国民生活は大きな打撃を受けました。医療界は一刻も早くこの変異株に関する知見を深め、私たちは感染者数に一喜一憂することなく基本的な感染対策を引き続き実践することが求められます。
著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙The Japan Times元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを歴任後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。