世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?

このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!

「飽食」と「貧困」の狭間でできることとは?

ロンドンのコミュニティ・フード・ハブを訪れた男性。イギリス国内では、コロナ禍で苦境に陥った家族や高齢者、ホームレスを支援するフードバンクやコミュニティ・フード・ハブが急増している。同国の食料と燃料の価格は昨年末から急上昇しており、インフレ率はこの40年で最高レベルに達している。 2022年5月4日。ロンドン・イギリス。(フランク・オーグスタイン / AP / アフロ)

私たちは物質的に豊かな日本で暮らし、身の回りには食べ物があふれています。しかし、この飽食の時代であるからこそ、food loss「食品ロス」の問題に目を向ける必要があるでしょう。農林水産省によれば、2020年度の日本の food self-sufficiency rate「食糧自給率」は、カロリーベースで37%にとどまりました。私たちが食べ物に困らないのは、日本の経済力で外国から食料を輸入しているからに他なりません。一方で UN World Food Program「国連世界食糧計画」は、2020年の世界の starving population「飢餓人口」、つまり「最低限の体重を維持し、軽度の活動を行うのに必要なエネルギーを摂取できていない」と定義される人々が、最大8億1100万人に増加したと報告しています。

食品ロスとは、本来は食べることができたはずの食品が廃棄されることです。日本の食品ロスは2020年度推計値で年間522万トンに上ります。この量は、1人あたりが毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てたに等しいものだそうです。記憶に新しい例として、昨年の東京五輪では、大会関係者向けに13万食(1億1600万円相当)の弁当が発注され、消費されずに廃棄される事例がありました。

食品ロスは、food loss at the production and retail stages「生産・小売段階で発生する食品ロス」と、food loss by consumers「消費者による食品ロス」に大別されます。スーパーでは expiration date「消費期限」を過ぎた食品が廃棄され、レストランでは leftover food「食べ残し、残飯」が発生します。また家庭では、household garbage「家庭ごみ」の多くを food waste「生ごみ」が占めています。食品ロスは、食品を焼却処理する際に排出されるCO2が地球温暖化の要因となる温室効果を助長することから環境への負荷が高いだけでなく、伝統的に「もったいない」の精神を大切にしてきた日本人のモラルにも反するものです。

政府は食品ロスについてどのような取り組みを行ってきたのでしょうか。2019年には「食品ロスの削減の推進に関する法律」(英語にすると Food Loss Reduction Promotion Act)が制定され、国、自治体、企業、消費者をあげてロス削減に取り組むことが求められました。しかし、この法律に罰則はなく、またロス削減に対するインセンティブも不十分だという指摘があります。

この点について、海外では罰則や税制優遇制度を設ける国が増えています。フランスは2016年に法整備を行い、一定規模以上のスーパーに対して、売れ残った食品を廃棄せずに food bank「フードバンク」や慈善団体に寄付したり、feed「飼料」や compost「堆肥」にしたりすることを義務づけました。違反した事業者には罰金が科せられます。ちなみにフードバンクとは、包装の不具合などで流通できなくなった食品を生活困窮者に配給する活動です。

中国では2021年、インターネット上で加熱していた gluttony video「大食い動画」に対するけん制として「反食品浪費法」が施行されました。食べ切れないほどの料理を注文した客や、反対に客に食べ切れない量の料理を注文させた飲食店が対象となります。大食いや大量の食品を無駄にするような動画の配信者には、10万元(約155万円)以下の罰金が科せられます。

日本で食品ロスに対する法規制が強化されるかどうかは不透明ですが、2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大によって、この問題は新たな局面に入ったと感じています。冒頭で紹介した2020年度の食品ロス522万トンとは、2012年度の統計開始以来最少の数字です。農水省は、コロナ禍による外出自粛で dining out「外食」が減少したことを要因として挙げています。

このこと自体は歓迎すべきことかもしれません。しかしその一方で、感染拡大防止の観点から children’s cafeteria「子ども食堂」の活動が縮小されました。一時期に比べると多くの地域で活動が再開されていますが、常に感染状況を横目にしながらの対応になるでしょう。

また、コロナ禍で生活困窮者が増え、日本でもより多くのフードバンクを求める声が増えています。農水省によれば、日本のフードバンク団体は今年4月時点で178ありますが、アメリカやヨーロッパなど、キリスト教の charity「慈善」文化を背景とする国々と比べれば、広く浸透しているとは言えません。

コロナ禍や経済状況による運営上の困難はありますが、子ども食堂やフードバンクは、食品ロスと貧困問題を同時に緩和する win-win「双方に利益をもたらす」施策です。菅義偉・前首相は、self-help, mutual help, and public help「自助・共助・公助」を政策理念としましたが、子ども食堂やフードバンクが対象とするのは「自助」では助けることが難しい人たちです。自発的かつ非営利の「共助」の助け合いの輪が途切れないよう、行政はさらに後押しする必要があるでしょう。

著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙The Japan Times元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを担当後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。