世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?

このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!

観光客も受け入れ地も満足できる観光とは?

バルセロナの中心地、プラサ・カタルーニャから出発するツアーバスに乗る観光客。海外旅行市場がコロナ禍のパンデミックから立ち直り、オーバーツーリズムの復活が懸念される中、スペインの港湾都市には早くも多くの観光客が押し寄せ、旧市街は人でごった返している。2022年5月11日。カタルーニャ州・バルセロナ。(リュイス・ジェネ / AFP / アフロ)

政府は6月10日、コロナ禍で停止していた観光目的の訪日外国人の受け入れ手続きを約2年2か月ぶりに再開しました。当面は感染リスクの低い国や地域からの package tour「パック旅行」に限定。経済的に大きな打撃を受けた inbound tourism「インバウンド観光」の復活に対する期待と不安が錯綜する中での再開です。形容詞 inbound には「外から内に入ってくる」という意味があります。

しかし、感染拡大防止の観点から、今回の訪日外国人観光の受け入れ再開については賛否両論が出ています。travel agency「旅行代理店」を経由しない independent traveler「個人旅行者」の入国は認めないものの、tour guide「添乗員」付きのパック旅行では大勢の参加者が一緒に行動するため、感染リスクが伴うでしょう。発熱時の対応や隔離場所の確保も問題です。また、すでにマスクを着けない生活に戻っている国から訪れる観光客に対して、添乗員が基本的な感染対策を順守させることができるのかという点も指摘されています。

日本は2000年代から、tourism-oriented country「観光立国」を成長の大きな柱と位置付けてきました。小泉政権が提唱した Visit Japan Campaign「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の下で、Yōkoso ! Japan のスローガンが掲げられました。また、2012年から8年間の安倍政権下で訪日観光客は4倍に増加し、新型コロナウィルスによるパンデミックの前には年間3000万人を超えました。

この流れを踏まえれば、コロナ禍で批判の多かった「Go to トラベル」キャンペーンは、急激に消滅したインバウンド需要を少しでも国内の旅行需要で埋めるための施策だったことが理解できるはずです。ただ、そのタイミングは不運でした。感染状況が未だ見通せない2020年7月の開始は時期尚早だったと言わざるを得ません。また、その後の感染拡大で同年12月に停止して以降、今年6月時点でこのプログラムは再開されていません。

コロナ禍は観光業に大きな打撃を与えましたが、それ以前の tourism boom「観光ブーム」による弊害について考える機会にもなりました。overtourism「観光公害、オーバーツーリズム」、つまり観光客が増えすぎたために観光地が疲弊してしまう問題です。自然環境に損害が及ぼされるだけでなく、交通機関の混雑で通勤・通学が妨げられたり、違法民泊の影響による家賃高騰で郊外への移住を余儀なくされたり、その土地の人々の暮らしや文化への悪影響も含まれます。海外ではイタリアのベネチアやスペインのバルセロナの事例がよく知られ、国内では京都や鎌倉の観光公害がしばしば取り上げられています。

筆者は京都に縁が深く、インバウンド最盛期の京都市バスの congestion「混雑」ぶりを体験しています。また、洛内に急増した外国人観光客向けの cosplay「コスプレ」さながらのレンタル着物・浴衣ショップは、古都の風情と調和するようには感じられませんでした。逆にコロナ禍の京都は過ごしやすく、学生だった90年代の京都の雰囲気がありました。

英語には a blessing in disguise というフレーズがあり、これは直訳では「(不幸を)装った幸福」、つまり日本語でいう「災い転じて福となす」にあたります。コロナ禍はインバウンド政策を再構築する好機です。昨今の yen’s depreciation「円安」を頼りに外国人観光客を再び大量に呼び寄せるのではなく、外国人、日本人ともに満足できるような旅行の質の底上げを目指すべきだと考えます。

別の言い方をすれば、表面的で一度訪れたら十分なもの、すぐに飽きられてしまうものではなく、持続可能な観光資源の発掘・開発がこれからの観光戦略の要になるのです。そのためには、観光地が自らの魅力を問い直して国内外にアピールすることが必要です。これは revitalization of regional areas「地方活性化」につながります。これまでのインバウンド観光は主に大都市圏や有名観光地の発展に寄与しましたが、観光を起爆剤とした地方創生は道半ばです。ただ、地方の魅力をアピールするには、よく練られた戦略と長い時間がかかるでしょう。コロナ禍で一段と疲弊した地方の観光業を盛り上げることは容易ではありませんが、粘り強く取り組んでいただきたいと感じます。

最後に私事になりますが、筆者の妻は「全国通訳案内士」の国家資格を持つフランス語通訳ガイドですが、コロナ禍で2020年以降の仕事はゼロになりました。しかし、最近少しずつ明かりが見え始めているようです。今回のインバウンド観光の再開が、都市や地方、そして観光に関わる多くの人々にとって a blessing in disguise となることを切に願います。

著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙The Japan Times元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを担当後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。旬な時事英語を解説する「内藤陽介のサイバー英語塾」で情報発信中。