世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?

このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!

賃金が伸び悩む中での物価高騰で、「スタグフレーション」に

インフレが進む中、政府のさらなる支援を求めてデモに参加する女性。「インフレ」(右)と「給与」(左)と書いたボードを手にする。アルゼンチン国家統計センサス局はこの日、2022年3月の消費者物価指数(CPI)上昇率を発表した。全国平均値は前月比6.7%に達し、単月では2002年4月以来過去20年で最も高い上昇率となった。前年同月比(年率)では55.1%上昇した。ブエノスアイレス・アルゼンチン。2022年4月13日(AFP / アフロ)

ロシアがウクライナへの侵攻を開始した2月以降、世界経済は大きな試練に直面しています。エネルギー価格の高騰を背景とする inflation「インフレーション、物価の継続的な上昇」です。その元となる動詞 inflate には、「膨らませる」、「(価格を)つり上げる」、あるいは「(数字を)大きく見せる」といった意味があります。

私たちの日常生活に inflation は大きな影を落としています。原油価格の高騰が pump price「ガソリン小売価格」に転嫁されています。pump は文字通りには「ポンプ」ですが、「ガソリンスタンドの給油機」という意味もあります。一方で、さまざまな daily necessities「日用必需品」の値上げが実施されています。ウクライナは小麦の主要な輸出国であるため、commodity「農作物、一次産品」の価格も上昇しています。またロシアは火力発電の燃料となる natural gas「天然ガス」の供給を戦略的なカードとしていることから、電気料金などの utility bill「公共料金」は上昇の一途をたどっています。

日本はどのような対応をとっているのでしょうか。Bank of Japan「日本銀行」は、現在のコロナ禍を踏まえて引き続き zero interest rate「ゼロ金利」政策を維持しています。コロナ禍での企業の資金の貸し借りを促進しながら、長期金利の上昇を抑えて国債利払いの増加による財政の悪化を防ぎたい背景があります。

これとは対照的に、アメリカの中央銀行にあたる Federal Reserve Board (FRB)「連邦準備制度理事会」は3月、2018年12月以来の interest-rate hike「利上げ」を行いました。これは超低金利政策からの転換であり、利上げによって世界の資金は利子の高いアメリカ経済へと流れていきます。

その結果、ドルに対する yen’s depreciation「円安」が進行しています。元となる動詞depreciate は、「(価格や価値が)下がる」ことです。反対に「円高」は yen’s appreciation です。円安は輸出メーカーにとっては追い風になりますが、輸入物価の高騰を招いています。

現在のような wage hike「賃上げ」がない中での物価の高騰は、bad inflation「悪いインフレ」であり、景気が停滞しているにもかかわらず物価の上昇が続くことから、stagflation「スタグフレーション」(stagnation 「停滞」+ inflation の造語)とも呼ばれます。これと対比するgood inflation「良いインフレ」とは、景気が拡大する中で物価が上昇していくことです。この正常な経済循環においては、賃金の上昇に伴って人々が使えるお金も増えていきます。

政府は、経済活動の基盤となる安定したエネルギー供給を確保する必要があります。東京電力が管轄する power grid「電力網」において、3月には大規模な blackout「停電」の懸念が高まりました。直前の福島県沖地震で複数の火力発電所が止まったことなどが原因でしたが、エネルギー資源を輸入に依存する日本にとっては象徴的な出来事となりました。

こうした状況を受けて、nuclear power plant「原子力発電所」の restart「再稼働」を求める声が出ています。2011年の福島第一原発事故以来、日本は再稼働に厳しい基準を適用しています。原子力の取り扱いはエネルギー需給だけでなく自然環境や生命にかかわる問題ですから、原発再稼働の議論は多面的に進める必要があります。

また、raw material「原材料」の調達について、特定国への依存を減らし多様化を図ることも急務です。日本には先進的なリサイクル技術があり、工業にとって重要な rare earth「レアアース」や rare metal「レアメタル」の再資源化をさらに高めることができるはずです。

インフレと均衡をとる形で賃金上昇を実現するためには、企業の productivity「生産性」の向上や innovation「革新、イノベーション」の促進も不可欠です。そのために政府は、企業の research and development (R & D)「研究開発」を支援しなければなりません。

例えば、日本は semiconductor industry「半導体産業」を中心とする電子立国でした。コスト競争で韓国や中国に敗れましたが、国内の研究開発や生産に集中的に投資することで、復権を目指すチャンスはあるはずです。

また、コロナ禍以前の inbound tourism「海外から日本を訪れる観光旅行、インバウンドツーリズム」は加熱しすぎた一面がありましたが、日本の旅の魅力を見つめ直すことで国内の旅行需要を喚起することもできるでしょう。このことは、インバウンド需要の再構築にもつながります。

現在のインフレは私たちにとって非常に辛いものですが、日本経済の基礎体力を向上させ、賃金の上昇につなげることができれば、good inflation、つまり成長にともなう正常な価格転嫁が可能になるのではと考えます。

著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙The Japan Times元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを歴任後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。