世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?

このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!

ウクライナ危機で地球規模のエネルギーバランスに影響も

ドイツ北東部ルブミンにある、天然ガスの海底パイプライン「ノルド・ストリーム2」の建設現場でパイプに蓋をする作業員(2019年3月撮影の資料映像)。2022年2月22日、ドイツのショルツ首相は、ロシアがウクライナ東部にある2つの親ロシア派地域の独立を承認したことを受け、ロシアとドイツを直接結ぶ天然ガスの海底パイプライン「ノルド・ストリーム2」の計画を停止したと発表した。(AFP / アフロ)

近年、社会生活のさまざまな場面で耳にするようになった言葉の一つに、「カーボンニュートラル」が挙げられるでしょう。地球温暖化による気候変動を加速させる carbon dioxide(CO2「二酸化炭素」の排出量を、これを吸収する施策と組み合わせることで実質的にゼロにするのが、「カーボンニュートラル(炭素中立)」という概念です。英語で carbon neutral は形容詞であり、名詞である carbon neutrality も使われます。

カーボンニュートラルに関する英文ニュースの頻出キーワードをいくつか見ておきましょう。emission は通例複数形で emissions「排出、排出量」です。greenhouse gas emissions は、二酸化炭素を主とする「温室効果ガスの排出」の意味で使われます。また、これを相殺する「(二酸化)炭素吸収源」と呼ばれるものが carbon sink で、主に森林を指します。こうして得られる均衡状態を net zero「実質ゼロ」と呼んでいます。世界は carbon neutrality を実現することで decarbonization「脱炭素(化)」を目指しています。

日本では carbon neutrality の実現に向けて、どのような取り組みがなされているでしょうか? 2020年10月、菅義偉・前首相は日本の温室効果ガス排出量を2050年までに net zero にする方針を表明しました。首相に就任後初の所信表明演説で、地球環境問題への取り組みを国内外にアピールしたものです。

民間でも新たな試みが始まっています。住友林業は前述の「吸収源」の拡大に注目し、いわゆる「森林ファンド」*1とよばれる投資の仕組みを使って、planting 「植林」を促進したい考えです。ファンドは、参加する企業の出資額に応じて CO2 の排出量を相殺するための carbon credit「炭素クレジット」を配分し、排出削減効果を取引できる枠組みを提供します。

しかし、地球規模のカーボンニュートラルの実現は一国だけでできるものではなく、中国、アメリカ、インドなどの CO2 排出大国の協力が欠かせません。この中で中国は、二酸化炭素の排出量を2060年までに net zero にすることを目指しています。しかし、習近平・国家主席の排出抑制政策によって、中国の企業活動や市民生活に深刻な power shortage「電力不足」が発生しました。具体的な削減目標を達成できていない地方政府が、排出量削減措置として thermal plant「火力発電所」の運転を抑制したのです。今後の施策次第では、中国に生産拠点を置く多くの日本企業の生産活動への影響も懸念されます。

また、今後のエネルギー情勢に深刻な影を落としているのが Ukraine Crisis「ウクライナ危機」です。これまで欧州を中心としたカーボンニュートラル推進の動きは、安価なロシアの natural gas「天然ガス」の供給があったからこそ可能だったと言えるでしょう。しかし、ウクライナに侵攻したロシアに対する economic sanctions「経済制裁」の影響で、世界的なエネルギー価格の高騰は避けられない見通しです。ドイツは、ロシアと結ぶ天然ガスパイプライン事業 Nord Stream II「ノルド・ストリーム2」の承認手続を停止していますが、不足分を再生エネルギーでまかなうのは困難だとみられています。

もし、欧州を中心としたカーボンニュートラルの取り組みが頓挫するような事態になれば、SDGs (Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)の第7目標である、”Ensure Access to Affordable, Reliable, Sustainable and Modern Energy for All”「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する(エネルギーをみんなに、そしてクリーンに)」の実現が遠のくおそれがあります。地球規模のエネルギーバランスという面で、ウクライナの事態は欧州だけでなく日本に暮らす私たちの生活にも深く関わっているのです。

著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙The Japan Times元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを歴任後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。旬な時事英語を解説する「内藤陽介のサイバー英語塾」で情報発信中。