写真で読み解くニュース英語 #05 LGBTQ+
世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?
このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!
誰もが生きやすい「多様性」のある世の中に
3年ぶりに大規模に開催された「東京レインボープライド」のパレード。約2000人がパレードに参加し、思い思いのスローガンを手に東京の街を行進した。渋谷。2022年4月24日(つのだよしお / アフロ)
今年も Pride Month「プライド月間」がやってきました。毎年6月に、LGBTQ+ への理解や、彼らの法的・社会的権利の向上を目指すさまざまなイベントが、世界各国で毎年開催されます。これに先立って、日本でも Tokyo Rainbow Pride 2022「東京レインボープライド2022」のパレードが4月に行われました。
従来は LGBT の4文字で呼ばれることの多かった sexual minority「性的少数者・性的マイノリティー」でしたが、Lesbian「レズビアン」、Gay「ゲイ」、Bisexual「バイセクシュアル」、Transgender「トランスジェンダー」に、すべての性的マイノリティーを表す Queer「クィア」(元々は形容詞で「変わった」の意味)あるいは、自身の gender identity and sex orientation「性自認や性的指向」がまだ決まっていない、もしくは意図的に決めない Questioning「クエスチョニング」を加えた LGBTQ が現在では一般的です。さらに最近では、他者に対して性的欲求や恋愛感情を抱かない Asexual「アセクシャル」や、性自認が男性でも女性でもない X-gender「Xジェンダー」など多様なセクシュアリティーへの認識が広まっていることから、LGBTQ+ と表記することも増えています。
LGBTQ+運動は、性的少数者や性的マイノリティーの人たちへの理解や権利を求めるものでしたが、現在はそれだけに着目するものではありません。彼らが抱える問題への理解を深めることを切り口として、広く少数者の自由や権利を向上させるための社会運動として広がる可能性も秘めているのです。
性的少数者の人権運動の歴史は古く、社会運動が盛んなアメリカのゲイ解放運動にその転換点があったとされています。同性間の性交渉を禁止する Sodomy Law「ソドミー法」がまだあった1969年に発生した Stonewall riots「ストーンウォールの反乱」では、ニューヨークのゲイバーに警察が捜査に入ったことが当事者たちによる暴動へと発展しました。
これを契機にアメリカでは LGBTQ+ の人々による権利獲得運動が広がりましたが、現在に至るその過程は一進一退です。1980年代には、まだよく知られていなかったHIV感染症と同性愛の関係が人々の恐怖感を煽り、1993年には同性愛者の米軍勤務が禁じられました。ただ、近年は LGBTQ+ への理解が急速に進み、有名アーティストや俳優が自らのアイデンティティを公表したり、公の場で支援の姿勢を示すようになっています。
日本では LGBTQ+ への理解は進んでいるでしょうか。東京レインボープライドの前身となるプライド・パレードである「東京レズビアン・ゲイ・パレード」が初めて開催されたのは1994年でした。主催団体が安定しない時代を乗り越えて、2010年代初頭からは毎年行われています。現在では当事者に加えて大企業もスポンサーとして参加するまでに至ったことから、LGBTQ+ の社会的な認知度はかなり向上してきたと言えるでしょう。
また、行政面の対応も進んでいます。2015年の東京都渋谷区と世田谷区を皮切りに、多くの自治体が partnership system「パートナーシップ制度」を採り入れ、same-sex couple「同性カップル」を自治体が証明し、宣誓を受け付けるようになりました。渋谷区の制度では、区内に同居し公正証書による契約を作成しているカップルが、区の証明書を受けられる仕組みです。区はこの関係を「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備えた関係」と見なします。
しかし、法律の壁が立ちはだかります。現在、29の国・地域(2020年5月時点)で same-sex marriage「同性婚」が可能ですが、日本の民法や戸籍法では認められていません。婚姻関係が存在しないことで、法律上の夫婦関係に認められるさまざまことが不可能になります。例えば inheritance「相続」について、パートナー死亡時には残された側に相続権はありません。また parental authority「親権」について、同性婚のパートナーの1人は血のつながりのない子と養子縁組を結ぶことは可能ですが、婚姻関係が認められないことからもう片方のパートナーには親権がありません。
法改正をするにしても、日本の伝統的な家族観を考えると、立法府を動かすには膨大な労力と時間がかかるでしょう。また「パートナーシップ制度」という限定的な行政対応にとどめることによって、法制度上は「同性婚を認めない」流れにつながりかねないという批判さえあります。heterosexual「異性愛者」や cisgender「シスジェンダー」(生まれたときに割り当てられた性別と自認する性別が一致し、それに従って生きる人のこと)に比べると、家族を持ちたいと考えたとき、LGBTQ+ は圧倒的な不利益を被っているのです。
LGBTQ+ の問題について、私たちはどこか自分とは関係ないものだと考えている人も多いかもしれません。しかし、この問題が投げかけている根源的なテーマとは、「性的少数者」の問題を超えて、あらゆる minority groups「社会的少数者」のアイデンティティが社会によって否定あるいは存在しないものとして扱われることなのです。
日本が diversity「多様性」を標榜するのであれば、LGBTQ+ の社会への inclusion「多様性の受け入れ」は避けて通れない問題でしょう。LGBTQ+問題を乗り越えるということは、日本がすべての人にとって生きやすい社会に変化する試金石であると考えます。
著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙The Japan Times元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを歴任後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。