世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?

このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!

「即時停戦」の声が届かぬ世界の矛盾

ハマスとイスラエル軍の戦闘が再開したこの日、イスラエル軍による家屋への攻撃があったガザ地区南部のラファで、負傷した子どもたちを運ぶパレスチナ人たち。パレスチナ。2023年12月1日。ロイター/アフロ

この数年、世界は度重なる惨事によって大きく揺れ動いています。2020年の COVID-19 pandemic「新型コロナウイルス感染症の世界的まん延」に続いて、2022年の Russian invasion of Ukraine「ロシアのウクライナ侵攻」、そして現在は中東の Palestinian territories「パレスチナ自治区」の Gaza Strip「ガザ地区」で、Hamas「ハマス」と Israel「イスラエル」の戦闘が続き、中東問題の新たな火種となっています。

ハマスが10月7日に、ガザ地区に近いイスラエル南部で開かれた音楽フェスティバルに terrorist attack「テロ攻撃」を行ったことが、この衝突の発端となりました。ハマスは会場に多数のロケット弾を撃ち込んだ後、参加者に次々と銃弾を浴びせました。音楽フェスは massacre「虐殺」の場と化したのです。またハマスは、奇襲攻撃の中で捕らえたイスラエルの人々を拘束、hostage「人質」としました。その後の仲介による交渉を経て、一部の人質が段階的に解放されつつあります。

イスラエルはガザ地区への攻撃を激化させ、テロとは無関係の多くのパレスチナの人々が犠牲となる一方で、現地の humanitarian conditions「人道状況」は悪化し続けています。日々の airstrike「空爆」やミサイル攻撃によって電気や水道などの utility infrastructure「公共インフラ」は破壊され、水や食料も不足し、たとえ攻撃を逃れたとしても public health「公衆衛生」の悪化で健康を害する人々が急増しています。

ハマスの広報部門による12月5日の発表では、ガザ地区の死者は1万6千人を超えたとのことです。ハマス側の発表する死者数について、これまでにアメリカのバイデン大統領は「確信はない」と発言しましたが、World Health Organization(世界保健機関、WHO)などは、信頼できる数字だとしています。

この事態に対して、国際社会はどのように対応しているのでしょうか。多くの国が全面的な ceasefire「停戦」(cease「止める」+ fire「攻撃」)を目指してはいますが、一般に ceasefire とは、当事者が正式な合意に基づいて戦闘を止めることを指します。しかし、ハマスとイスラエルが早期に本格的な停戦合意を結ぶことは期待できないため、妥協策として戦闘を一時的に pause「休止」させることを当面の目標としているのです。したがって、交渉では humanitarian pause「人道的休止」という表現が繰り返し使われています。実際、11月24日からの4日間の予定(最終的には7日間まで延長された)で実施された一部人質の解放と戦闘休止もこの範疇に入るものです。その後戦闘は再開しましたが、イスラエルのネタニヤフ首相はハマスが壊滅するまで戦いを続ける構えで、今後、全面的な停戦合意が得られるかどうかは見えないままです。

ハマスはガザ地区を実効支配する militant group「武装組織」で、パレスチナを正式に represent「代表する」存在ではありません。しかし、ハマスとイスラエルの武力衝突を理解するためには、長年にわたるパレスチナとイスラエルの対立について知っておく必要があるでしょう。約2000年前に新バビロニア王国やローマ帝国にイスラエルの地を追放されて、diaspora「離散」(ギリシア語由来で、dispersion と同義)を経験し、迫害を受けてきたユダヤ人の悲劇と、1948年のイスラエル建国によって故郷を追われたパレスチナ人の悲劇という double tragedy「二重の悲劇」がアラブとイスラエルの対立の根底にあると言えます。双方が coexist「共存する」ことができれば良いのですが、イスラエルの建国を機に今もなお対立が続いています。現状では、パレスチナ人は West Bank「ヨルダン川西岸」とガザ地区で暮らしていますが、実質的にイスラエルの占領下に置かれています。ハマスのようなイスラエルの right to exist「生存権」を認めない勢力が生まれる背景には、このような歴史があるのです。

また、パレスチナ問題における欧州の責任は非常に大きいことも指摘しておかなければなりません。イスラエルの建国の直接的な発端は、第1次世界大戦中のイギリスが、①Ottoman Empire「オスマン帝国」後の中東地域の分割をフランス・ロシアとの間で秘密裏に進めた一方で、②アラブ民族運動を支援しつつ、③ユダヤ人の国家建設にも誘いをかけた、同国の triple tongue diplomacy「三枚舌外交」でした。

第2次世界大戦後に覇権国となったアメリカではユダヤ人の影響が強く、国際政治のあらゆる場面においてアメリカはイスラエルの支援国と考えて差し支えないでしょう。今回の戦闘においても、アメリカのバイデン大統領は停戦交渉の broker「仲介役」を担っていますが、platform for terrorism「テロの温床」を根絶する観点から、単に停戦をもって問題の解決とすることには懐疑的であるようです。大統領は11月18日のThe Washington Post紙への寄稿で、ハマスを徹底的に排除すべきだとし、停戦は次の戦闘を準備するためのハマスの時間稼ぎに使われるだけで解決にはならないとの考えを示しました。

欧米のようにイスラエル・パレスチナ問題に直接の stake「利害関係」を持たない日本ができることとは何でしょうか? 筆者は2000年代初めごろ、The Japan Times記者として外務省記者クラブに常駐していましたが、中東を担当する高官たちは、よく「日本は中東のバランサー」だと自負していました。実際には経済的な支援外交が中心でしたが、欧米のように tainted「汚れた、汚点のある」介入の歴史を持たない立場から、日本は Middle East peace process「中東和平プロセス」で一定の信頼を得てきたと感じています。しかし、近年の中国の国際舞台における台頭や、GDPが世界第4位に転落する見通しに象徴されるような国力低下の中で、アメリカ追随の外交姿勢がますます色濃くなっています。

ceasepause かという技術的な議論も重要ですが、戦闘が終わったあとには必ず peacemaking「平和の構築」が問題となります。日本が果たせる役割があるとすれば、それはアラブとイスラエル双方の顔色をうかがってバランスをとることではなく、多国間交渉による和平プロセスでさまざまな initiative「構想、取り組み」を打ち出すことではないかと考えます。その舵取りは困難を極めることが予想されますが、すでにウクライナ戦争による soaring prices「物価高騰」の影響を受ける中で、中東情勢が悪化すれば原油高によって私たちの暮らしはさらに打撃を受けるでしょう。ハマスとイスラエルの戦闘は、決して someone else’s problem「他人事、対岸の火事」ではないのです。

著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙 The Japan Times 元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを担当後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。旬な時事英語を解説する「内藤陽介のニュース英語塾」で情報発信中。