世界中で報道されるニュースを、英語で読んでみたくありませんか?

このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!

民主主義の参加者となるために

東京都知事選候補者の最後の訴えに耳を傾ける人たち。東京都新宿区。2024年7月6日。毎日新聞社/アフロ

みなさんは right to vote「選挙権」を欠かさず行使しているでしょうか? election「選挙」は毎年どこかで行われています。2024年には補欠選挙を除いて衆参の国政選挙はありませんが、地方自治体の首長を選ぶ選挙では、7月の Tokyo gubernatorial election「東京都知事選挙」で小池百合子氏が3期目の当選を果たしました。また海外に目を向ければ、今年は4年に一度の U.S. presidential election「アメリカ大統領選挙」の年です。共和党の Donald Trump(ドナルド・トランプ)前大統領が襲撃事件をきっかけに勢いを増す一方で、民主党の Joe Biden(ジョー・バイデン)現大統領は選挙戦からの withdrawal「撤退」を表明しました。Kamala Harris(カマラ・ハリス)現副大統領が民主党の大統領候補に指名されることが確実となりましたが、結果が判明する11月まで選挙情勢から目が離せません。

選挙は現代社会で暮らす私たちにとって避けては通れないイベントであり、また cast a ballot「一票を投じる」ことで voter「有権者」としての意思表示を行う貴重な機会でもあります。democracy「民主主義」を実現する具体的手段として、そして歴史上高い実効性を持つ方法として、選挙は確立されてきました。民主主義とは単なる majority rule「多数決」ではありません。それぞれの有権者が自分自身で判断を行うことができる健全な状態にあることが大前提です。日本では、民主的な選挙を実現するために popular sovereignty「国民主権」の原則に加えて、freedom of speech「言論の自由」や equality under the law「法の下の平等」を含む respect for basic human rights「基本的人権の尊重」が Constitution「憲法」によって保障されています。

ところが、理念としては万全を期しているはずの民主的な選挙制度も、現在の日本ではあまり上手く機能していないように感じられます。現実には多くの問題点を抱えており、中でも low voter turnout「投票率の低迷」はその最たるものです。国政選挙における投票率は、昭和の時代には概ね60-70%台にありましたが、平成以降は50-60%台が目立ち始め、直近の2021年の衆院選では55.93%、2022年の参院選では52.05%となりました。その背景には有権者の political apathy「政治的無関心」があると考えられています。また、vote disparity「一票の格差」も大きな問題です。2010年の参院選では、議員1人あたりの有権者数は最も多い神奈川県(約121万人)と最少の鳥取県(約24万人)との間で5.01倍の開きを生み、2012年に最高裁は unconstitutional「違憲の」状態にあると判断しています。こうした一票の重みの差が、「自分の一票では何も変わらない」というあきらめを助長しているのかもしれません。

国民が政治に対する surveillance「監視」を怠ってきたことが原因なのか、あるいは今のような政治を望んで議員を選んできたことが原因なのかは議論の尽きないところですが、政治は国民からますます out of reach「手の届かない」世界になりつつあります。筆者の見解では、その象徴的な弊害が hereditary lawmakers「世襲議員」の増加による権力層の固定化であり、これが政治家の家系に生まれた者だけが政治を担う人材流動性の低い政治を招いていることです。選挙には「カネ」がかかるとはよく言われることですが、この「カネ」には election win「当選」を確実にする支援を得るためのさまざまな費用が含まれます。Public Offices Election Act「公職選挙法」は選挙資金に依存しない公正な選挙のためのさまざまな規制を設けていますが、生まれながらにして財力と strong voter base「岩盤支持層」(強固な有権者基盤)を持つ二世・三世議員が優位に立つのは想像に難くありません。実際、岸田文雄首相が2023年9月に行った直近の Cabinet reshuffle「内閣改造」では、首相を含む大臣20人のうち8人が実の父か母が国会議員の世襲議員でした。また、与党自民党では3割近くが世襲だという調査もあります。なお、経済社会では、人材流動性の低さはイノベーションの停滞を招き、生産性向上の妨げになるとされています。政治の世界でも家柄などにとらわれない多様な議員が増えることで、画期的な政策が生まれるのではないでしょうか。

私たちには、今の sense of being trapped「閉塞感」に満ちた政治を変えることはできないのでしょうか? その試みとして、日本でも2016年に選挙権年齢がこれまでの20歳から18歳に引き下げられました。世界の大半の国がすでに18歳までに選挙権を与えている中で、日本もようやくこれに追随した形です。将来を担う若い世代が有権者に加わることで若年層の participation in politics「政治参加」を促し、投票行動における generational gap「世代間格差」の是正につながることが期待されています。なお、「政治的無関心」は若い世代に顕著だとの論調をよく見かけますが、筆者は決してそうは考えません。以前に首都圏の複数の高校で時事英語の特別講義を行ったことがありますが、生徒の多くが社会の出来事に関心を持ち、また同時に将来への不安を感じ、自分に何ができるか考えていきたいという意見を持っていました。すべての若者が政治に関心がないはずはありません。declining birthrate「少子化」と aging「高齢化」によってもたらされる社会保障費の増加や介護の負担をどのように分担するかが中心テーマになる今後の日本社会で、彼らはその大きな部分を背負っていくことになるからです。

しかし、彼らの政治への関心が必ずしも投票行動に結びついていない現実もあります。総務省の統計では、2021年の衆院選における世代別投票率は60代が71.38%と最も高く、20代は最低の36.50%で、選挙権年齢が引き下げられてから2度目の衆院選となった10代の43.23%を下回る水準でした。その原因について、大別して「投票方法の問題」と「選択肢の問題」が浮かび上がってきます。SHIBUYA109エンタテイメントが2023年5月に1都3県に住む18-24歳の約400人に対して行ったアンケート「Z世代の政治に関する意識調査」では、internet voting「インターネット投票」(55.5%)」や「若手議員の増加」(35.4%)を求める声が目立ちます。インターネット投票には cybersecurity「サイバーセキュリティー」(不正侵入やデータ改ざんからの保護)や authentication「本人認証」などの技術的な問題はありますが、実現に向けてさらに検討すべき課題だと考えます。

一方、「若手議員の増加」を求める背景には、その裏返しとしての lack of choice「選択肢の無さ」が存在しています。これは投票方法の改善よりも根深い問題です。日本の国会は representative democracy「代議制民主主義、代表民主制」を採用しており、選挙で選ばれた代議員に政治を任せる indirect democracy「間接民主主義」です。そのため、大きな block votes「組織票」となる企業・団体や厚い有権者層を構成する高齢世代の要望が反映されやすく、有力候補は現状維持や保守的な政策に偏りがちです。反対に、若い世代が共感できる争点や政策パッケージを掲げる候補は、実質的な勝負から外れるケースが多いのです。選ばれた議員が若い世代の public opinion「民意」を反映していないことが、彼らにとっての選択肢の無さを増大させています。

代議制の問題点は日本だけでなく世界に共通する課題です。アメリカのシンクタンク Pew Research Center(ピュー研究所)が昨年に世界24ヵ国(日本は含まない)の約3万人に行った調査では、大半の回答者が代議制民主主義を「良い統治方法だ」としながらも、59%が「自国の民主主義に不満」を持ち、74%が「選ばれた議員が自分たちの意見を気にかけていない」と考え、また42%が「自分の意見を代弁する政党がない」と回答しました。一つの対応策として、日本では国政にリーダーの直接投票的な要素を取り入れる direct election of the prime minister「首相公選制」を求める声があります。ただ、Constitutional amendment「憲法改正」が必要になるなど、実現へのハードルは非常に高いものです。

民主主義をどのように維持発展させていくかという問題に関して、Barack Obama(バラク・オバマ)元アメリカ大統領は、2017年に任期を終えてホワイトハウスを去るときの演説で次のように述べました。“Our democracy is threatened whenever we take it for granted.” 「私たちの民主主義は、それを当然のものと考えたとき、いつでも脅かされます」。現在の日本の政治はさまざまな問題を抱えていますが、私たちは選挙を通じてこれを変えていくしかありません。民主主義が健全に機能するためには、幅広い世代に政治への engagement「参加」を促す努力が必要なのです。

著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙The Japan Times元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを担当後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。