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このコラムでは、旬なニュースを写真で紹介し、そのテーマについて解説しながら、英語でニュースを読む手助けになるように関連する単語や表現を取り上げます。環境問題やジェンダー平等など、世界中が抱える課題に触れながら、英語学習にお役立てください!

※本記事は、日本時間2026年6月18日、アメリカ・イランの「戦闘終結」に向けた和平・停戦の正式署名の報を受けた時点で作成されたものです。

「戦闘終結」合意後も予断を許さない石油調達

イラン戦争によりカラーインクの原料となるナフサの供給が滞る中、カルビーはポテトチップスなどのパッケージを白黒包装にすると発表した。2026年5月14日。AP / アフロ

アメリカとイスラエルがイランに攻撃を始めてから約4カ月が経ち、この Iran War「イラン戦争」は大きな転機を迎えました。日本時間の6月18日、アメリカとイランは戦闘終結に向けた覚書に正式署名し、海上輸送の要衝である Strait of Hormuz「ホルムズ海峡」の blockade「封鎖」が解除されました。長らく石油タンカーが通航できない状態が続いていたため、ひとまずの危機は脱したものの、日本の oil crisis「石油危機」が終息したわけではありません。焦点となるイランの核問題は覚書の署名後60日間で最終合意を目指すとされ、イスラエルの動向も不透明なままです。さらに、今後ホルムズ海峡の通行料の問題が浮上する可能性もあり、sea mine「機雷」の除去や船舶の insurance premium「保険料」の高騰とあいまって、日本の石油輸入が戦争前の状態に戻るかどうかは依然として不透明なままです。

資源エネルギー庁によれば、2026年6月時点で日本には1日の石油消費量の200日分を超える stockpile「備蓄」があるとされていますが、これに安心してしまうのは非常に危険です。中東への crude oil「原油」依存度は直近で95%前後に達しており、中でもホルムズ海峡を経由する原油輸入が日本経済の lifeline「生命線」として位置付けられてきました。今回の危機を受けて、他の地域からの alternative sourcing「代替調達」は進められていますが、最大の問題は日本の petrochemical industry「石油化学産業」そのものが中東産の原油に最適化されていることです。製油所の設備設計、港湾インフラ、タンカー運用、さらには調達の長期契約まで、産業全体が中東依存を前提とした構造になっているのです。ホルムズ海峡の開放後も中東産原油が以前の通航量にすぐに戻ることは難しく、主な代替となるアメリカ産の原油は成分が大きく異なるために、効率的に石油製品の供給を増やすことは難しくなります。

この構造的リスクは、すでに naphtha「ナフサ」不足として幅広い業界で表面化しています。原油から精製されるナフサは、さらに熱分解することでエチレン、プロピレン、トルエンなどに分かれ、プラスチックや合成樹脂の原料として医療資材、建設資材、食品包装材、潤滑油、インク、塗料、接着剤など幅広い製品に使われています。そのためナフサの供給が滞ると、supply chain「供給網、サプライチェーン」からの素材提供も滞り、最終的には個別企業による製品の生産停止にまで影響が広がります。日本は高度な加工貿易国家であり、最終製品の製造過程で多種多様な石油化学素材を使用します。原油輸入の不足はナフサの不足に直結し、material shortage「素材不足」が産業活動や国民生活に大きな影響を与えることになります。

実際、ナフサに由来する資材の不足によって、建設や住宅業界では工事ができないケースが増えています。また、同じくナフサ由来の paint thinner「塗料シンナー」の不足によって、塗装業や自動車修理業でも深刻な経営危機が生じています。ナフサ不足の影響は、中小零細だけでなく大企業にも広がりつつあります。消費者にとっても price hike「値上げ、価格上昇」が多くの商品で目立ってきました。ただ、今のところ daily necessities「生活必需品」が買えない状態にはありません。しかし、食品トレイや包装資材の供給がひっ迫すれば、小売店舗の商品棚は一変するかもしれません。その象徴的な一例として、5月には大手菓子メーカーのカルビーが、インク節約のためにポテトチップスなどのパッケージ印刷をカラーから monochrome「白黒、モノクロ」に変更しました。

一方、今回の石油危機に対して、日本はこれまで比較的冷静に対応できているという見方もあります。政府は国家備蓄石油の放出、製油所の稼働率調整、代替調達先の確保などに比較的早い段階から取り組んできました。その結果、ガソリンの rationing「配給制」や fueling restrictions「給油制限」は導入されておらず、社会機能も維持されています。これに対して、韓国ではナンバープレートの数字に応じて特定曜日の利用を制限する仕組みが導入され、インドでは大口需要家によるガソリン購入が制限されました。また、タイ、ベトナム、パキスタンなどでは remote work「在宅勤務」や public transportation「公共交通」を利用するなど、需要側の energy conservation「エネルギー節約」が要請されました。この点を踏まえると、日本は95%近い中東依存にもかかわらず、危機の影響を一定程度抑え込んでいると評価することもできるでしょう。

今回の石油危機において、政府の施策の中心となっているのがガソリンや軽油への subsidy「補助金」です。政府は補助金で家計や企業の負担軽減を図っていますが、他のアジア諸国のような石油不足の深刻さを国民が実感しにくくなっているとの指摘もあります。本来、価格上昇は消費者や企業に対して需給のひっ迫を知らせる重要なシグナルであり、消費抑制や代替手段への転換などの behavioral change「行動変容」を促します。しかし補助金によって価格上昇が緩和されると、危機への警戒感が薄れてしまうのです。日本では補助金の効果が normalcy bias「正常性バイアス」として働く可能性があります。

さまざまな物資が枯渇する worst-case scenario「最悪のシナリオ」に備える意味では、高市政権の対応は国民に対して insincere「不誠実だ」と言わざるを得ません。4月下旬に行われたANN世論調査では、政府が石油消費を減らすために節約を呼びかけることについて、64%が「行うべき」、26%が「行うべきではない」と回答しました。しかし、首相はエネルギー節約には慎重で、石油備蓄は十分、ナフサも総量では足りていて、問題は流通過程の bottleneck「障害、目詰まり」にあると主張しています。需要側の inventory「在庫」の積み増しや一部業者による hoarding「買い占め」によって、ナフサの流通が停滞しているという見方です。しかし、政府が発表した4月の石油統計と貿易統計によると、原油の輸入量は前年同月比65.7%減の407万61キロリットルで、1989年以降で最低水準となりました。ナフサの生産量は前年同月比22.8%減の90万6660キロリットル、輸入量は前年同月比で47%減の114万キロリットルで、流通の「目詰まり」ではなく供給量そのものが不足していることがうかがえます。

さらに外交的な視点では、イラン戦争への対応における日本の存在感は乏しいと言わざるを得ません。日本はアメリカの同盟国である一方、イランとも歴史的に一定の信頼関係を築いてきました。本来であれば、日本はパキスタンが行ったような ceasefire talks「停戦協議」を主導したり、日本関係船舶の安全確保に向けて多層的な外交ルートを模索できる立場にあったはずです。しかし、日本はトランプ政権への配慮を優先した一面もあり、ホルムズ海峡の全面開放を求める姿勢を変えませんでした。石油とナフサの安定供給が国民生活に直結する以上、日本が独自の resource diplomacy「資源外交」を展開できなかったことは重く受け止めるべきでしょう。

アメリカとイランの戦闘終結の合意は得られましたが、日本にとってこの危機の真の解決とは、産業を動かす血液とも言うべき石油が再び安定的に供給されるか否かです。今回、原油に加えて平時からのナフサ備蓄、調達先の diversification「多角化」、多層的な資源外交などを組み合わせた energy security「エネルギー安全保障」を推進して、国民生活を守る仕組みを強化する必要性が浮き彫りになりました。高市政権に課された責務とは、まず石油製品をめぐる実態を正確に把握して、資材不足に困窮する現場との認識のずれについて accountability「説明責任」を果たすことです。そこで初めて私たちの疑念は払拭され、この難局を乗り越える上で解決すべき問題を共有することができるのではないでしょうか。

著者の紹介
内藤陽介
翻訳者・英字紙The Japan Times元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを担当後、ニュースデスクに。英文ニュースの経験は20年を超える。現在は翻訳を中心に、NHK英語語学番組のコンテンツ制作や他のメディアに執筆も行う。