リアルな英語表現が満載の映画のセリフ。こんなふうに言えたらいいな、というフレーズを字幕翻訳者の岩辺いずみさんがピックアップして映画の内容とともにご紹介します。

When skies are grey, hope is the way.

2025年も終わりが近づいてきました。年末年始は家族で過ごす時間や、家族のことを想う時間が増える人も多いのではないでしょうか。今回は、たった1人(1頭?)で南米ペルーからロンドンに来て、縁あってブラウン家の一員になったクマのパディントンを描くシリーズからセリフをご紹介。3作目となる最新作では、ブラウン一家がパディントンの故郷ペルーへ飛び出します。

© 2024 STUDIOCANAL FILMS LTD. – KINOSHITA GROUP CO., LTD. All Rights Reserved.

ロンドンでの生活にすっかり慣れたパディントンは、ついにイギリスのパスポートを取得します。近所の人たちからも祝福を受け、パディントンはご満悦。

パディントン: Aunt Lucy, I am now “Officially British”!

(訳)     ルーシーおばさん、これで僕も正式にイギリス国民だ!

早速、ペルーにいるクマのルーシーおばさんに、手紙で報告をします。Officially British の officially は「政府や権威のある機関から認められた、公認された」ことを意味する形容詞 official の副詞形で「正式に、公式に」の意味。パスポートをもらったということは、イギリス政府に国民として認められたということ。パディントンが喜ぶのも、もっともです。

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一方、ブラウン家では子どもたちが成長し、家族で過ごす時間が少なくなっていました。家族を愛するブラウン夫人(エミリー・モーティマー)は、大好きな芸術活動にいそしみますが、寂しさを隠せません。夫のブラウンさん(ヒュー・ボネヴィル)に、ポツリと言います。

ブラウン夫人: Do you remember when our whole family could all fit on one sofa?

(訳)     うちの家族みんなが1つのソファに座れた頃を覚えている?

ブラウンさん: I didn’t finish a crossword in ten years.

(訳)     この10年はクロスワードパズルを、やり遂げられなかった。

ブラウン夫人: What happens next?

(訳)     この先、どうなるのかしら?

ブラウン夫人は our whole family could all fit on one sofa「家族みんなが1つのソファに座れた」と言いますが、ブラウン家は夫婦+子ども2人+親戚のバードさん(ジュリー・ウォルターズ)+パディントンの6人家族。子どもたちが小さかった頃とはいえ、ギュウギュウに詰めなければ座れません。それでも笑いながら座っていたところに、仲の良さが表れています。
ブラウンさんのセリフにある in ten years の <in+期間> は、肯定文なら「~以内に」「(今から)~後に」などの意味を示しますが、否定文(とくに現在完了形と用いられる場合)では「(その期間)ずっと~ない」という継続的な未完了を表します。現在完了形で have not finished in ten years なら「この10年ずっとやり遂げられていない」と、今もできていないことを示しますが、今回のように過去形の場合は、ある期間にわたって続いた状態を表しています。つまり、「この10年間はできなかったのに、今はできるようになった」ということ。子どもたちが小さな頃は忙しくてクロスワードもろくにできなかったのに、今は最後まで終える余裕ができました。What happens next? には、子育てが終わりつつあることを実感したブラウン夫人の戸惑いが出ています。

そんなブラウン家のもとへ、ルーシーおばさんのいる Home for Retired Bears (老グマホーム)の院長(オリヴィア・コールマン)から、不穏な手紙が届きます。それは、おばさんがパディントンを恋しがって元気がないというものでした。心配したパディントンを見て、ブラウンさんが同情しつつも「ペルーに行くわけにもいかないし」とポロっと言うと、ブラウン夫人の目がキラーンと輝きます。

ブラウン夫人: It’s the perfect idea. Aunt Lucy’s missing Paddington. He’s just got his passport. This family needs to spend some time together.

(訳)     それは名案ね。ルーシーおばさんはパディントンに会いたがっている。彼(パディントン)はパスポートを手に入れたところよ。この家族には一緒に過ごす時間が必要だもの。

ジョナサン:  Does it?

(訳)     必要かな?

ブラウン夫人: Yes! Let’s do it! A trip to Peru! A family holiday in Peru.

(訳)     そうよ! やりましょう! ペルーへの旅! ペルーへ家族旅行よ。

家族で過ごしたくてたまらないブラウン夫人は、絶好のチャンスとばかりにペルー行きを決めます。思春期の息子ジョナサン(サミュエル・ジョスリン)の気乗りしない返事なんて、お構いなし。A family holiday(家族の休暇旅行)を過ごそうと、家族みんなで、いざペルーへ。

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ところが、ペルーの老グマホームへ着くと、ルーシーおばさんは姿を消していました。院長から、おばさんが何日も引きこもり、コソコソと何かを調べていたと聞いたパディントンは、納得できません。

パディントン: This isn’t like Aunt Lucy. Something’s wrong. We need to send out a search party!

(訳)     これはルーシーおばさんらしくない。何かがおかしい。捜索隊を送り込まなきゃ!

ここでの like は「~のように」「~らしく」を表す前置詞で、Aunt Lucy(ルーシーおばさん)を目的語に取っています。セリフは <be動詞+like+目的語> ですが、例えば He talks like his father.(彼は父親のように話す)のようにbe動詞以外でも使えます。ルーシーおばさんをよく知るパディントンだからこそ、異常事態だとすぐに分かったのでしょう。「捜索隊」を意味する a search party の party は「特定の目的のために編成された人々の集団」を意味し、「一団、隊、グループ」などと訳されます

すでに捜索隊は送り込まれ、おばさんの腕輪と壊れたメガネが見つかったことを知ったパディントン。おばさんを捜すために、みずからジャングルへ行くことを決意します。そんなパディントンを院長が励まします。

院長:     If anyone can do it, it’s you, young bear.

(訳)     それができるのは、あなたしかいないわ、クマさん。

パディントン: Aunt Lucy always says, “When skies are grey, hope is the way.”

(訳)     ルーシーおばさんは、いつも言うんだ。「空が曇っていれば、希望が道を照らす」と。

If anyone can do it, it’s you.(それを誰かができるとしたら、それはあなた)とは、力強い言葉ですね。言われたほうも「やれるのは自分だけ」と思ったら、迷いも吹っ切れます。 本来なら young man と言うところを young bear と言うところにクスッと笑ってしまいます。
“When skies are grey, hope is the way.” は grey と way で韻を踏んでいて、リズムがありますね。sky ではなく skies のように複数形になっているのは、空の広がりや連続性を強調する特別な用法です。空模様や天候を表す際にはしばしば用いられます。空模様を人生の状況に例えて、「人生がうまくいかない時」を skies are grey(空が曇っている)と表現しています。hope is the way の the way は「道筋、指針」の意味。「希望が道筋となる」、つまり「困難な状況でこそ、希望を忘れるな」ということ。素敵な言葉ですね。

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パディントンが行くと決めたら、ブラウン家の面々も放っておくわけにいきません。バードさんを老グマホームに残し、いざジャングルへ。クセのありそうな船長(アントニオ・バンデラス)の船をチャーターして捜索に向かいます。ブラウン家だけでなく、いろんな家族が登場し、それぞれの愛や絆が描かれる本作。お時間があれば、1作目と2作目も合わせてご覧になると、心が芯からポカポカ温まりますよ。
2026年が皆さまにとって、希望に満ちた年になりますように。Hope is the way!

作品情報

  • 『パディントン 消えた黄金郷の秘密』
  • 監督:ドゥーガル・ウィルソン
  • 出演:ベン・ウィショー(声)、ヒュー・ボネヴィル、エミリー・モーティマー、アントニオ・バンデラス、オリヴィア・コールマン、ほか
  • Blu-ray&DVD:2025年12月24日(水)発売
  • 発売:キノフィルムズ/木下グループ
  • 販売;ポニーキャニオン
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