リアルな英語表現が満載の映画のセリフ。こんなふうに言えたらいいな、というフレーズを字幕翻訳者の岩辺いずみさんがピックアップして映画の内容とともにご紹介します。

I am not a square.(僕は堅物じゃない。)

そろそろ来年の予定が入り始める頃ですね。今年のTO DOリスト(やることリスト)を見て焦る人もいるかもしれません。今回はクリスマスに向けて・・・というと気が早いのですが、キリスト教と聖書にまつわる映画からセリフを紹介します。

映画のタイトルは『ジーザス・レボリューション』。ジーザス(Jesus)とはご存じのとおり、イエス・キリスト(Jesus Christ)のことで、レボリューション(revolution)は「革命」。本作は実話を基にしており、1960年代後半~1970年代初めにかけて、アメリカ西海岸から広まったキリスト教の運動 “ジーザス・ムーブメント(Jesus Movement)” の始まりを描いています。
宗教がテーマというと難しく聞こえるかもしれませんが、このムーブメントを起こしたのはベトナム戦争や親世代の物質主義に反対し、ラブ&ピースを訴えたヒッピー(hippie / hippy)と呼ばれる若者たち。社会に背を向けて自由を謳歌するヒッピーたちが、家族や世間から疎まれて孤立し、居場所を求めて葛藤する様子は、現代に通じるものがあります。実は欧米の映画やドラマとは切っても切り離せないキリスト教。ちょっとしたセリフにも聖書の引用があったりして、日常に浸透していることが分かります。

では本題に入りましょう。カリフォルニア州で小さなキリスト教プロテスタント系の教会を営む牧師(pastor)のチャック(ケルシー・グラマー)は、テレビに映るヒッピーたちの言動に「救いようがない」と眉をひそめます。娘のジャネット(アリー・ヨアニデス)に「会ったこともないのに決めつけるのはよくない」と言われ、こう答えます。

チャック: Thought they didn’t talk to squares. Didn’t you say I’m square?
(訳) 彼らは堅物とは話さないと思ったがね。君は私が堅物だと言わなかったか?

ジャネット: Dad, you are the very definition of a square.
(訳) パパは堅物そのものよ。

「square の定義そのもの」(the very definition of a square)の square は図形の「正方形」を意味しますが、転じて俗語で「融通の利かない人、頭の固い人、古くさい人」を指します。上のチャックのセリフの Thought they didn’t talk to squares. では名詞として使われていますが、Didn’t you say I’m square? のように形容詞としても使われます。日本語でも、まじめな人を「四角四面な人」と言いますね。言語は違っても、四角に同じようなイメージがあるのが面白いところです。
ちなみにこの square は、本作の主人公グレッグ(ジョエル・コートニー)が憧れの女性キャシーに会った時にも出てきます。グレッグは男性トラブルの絶えない母親と2人暮らし。母親の希望どおり厳しい士官学校に通いますが、通学中にキャシー(アナ・グレース・バーロウ)たち高校生の楽しそうな姿をうらやましく眺めていました。そんなグレッグにキャシーは、こう言います。

キャシー: Hey, square.
(訳) どうも、堅物さん。

グレッグ: I am not a square.
(訳) 僕は堅物じゃない。

キャシー: Sorry, sorry. You dress like one.
(訳) ごめん、ごめん。そういう格好なんだもの。

制服姿のグレッグが、ヒッピー女子高生のキャシーに「お堅い」と思われても仕方ありません。グレッグはキャシーと仲間たちに誘われるがまま、自由奔放な生活に引き込まれていきます。

一方、ジャネットはドライブ中、「ジーザスは君を愛してる」(Jesus ♡ you)と背中にペイントされたケープを着た長髪のロニー(ジョナサン・ルーミー)を見かけ、思わず声をかけます。

ジャネット: So, where you headed?
(訳) それで、どこへ向かってるの?

ロニー: Comin’ down from San Francisco. Spreadin’ the good news to whoever wants to hear it.
(訳) サンフランシスコから来た。聞きたい人に福音を広めているんだ。

the good news とは「良い知らせ」のことですが、ここでは「福音」つまり「キリストの教え」を指します。ゴスペル音楽で知られる gospel も「福音」の意味で、頭文字が大文字の Gospel は新約聖書の福音書のこと。旧約聖書は Old Testament、新約聖書は New Testament です。ジャネットの父親チャックは牧師(pastor)ですが、聖職者を指す priest はカトリックなら「神父」、プロテスタントは「牧師」と訳し分けます。また、注意しなければならないのが聖書に出てくる言葉。本作でも引用される Job は「仕事」ではなく旧約聖書の「ヨブ記」に登場する人物ヨブで、神の試練に耐えたことから「ヨブのような忍耐強さ」(patience of Job)という慣用句があります。イエスの12使徒の一人である John「ヨハネ」Mattew「マタイ」、『ルカによる福音書』の Luke「ルカ」(すべて新訳聖書)など、聖書では通常の英語の発音とは違うカタカナ表記が使われるので、注意が必要です。
本作にも次の有名な祈りの文句が出てきます。

チャック: In the name of the Father, and of the Son, and of the Holy Spirit.
(訳) 父と子と聖霊の御名において。

Holy Spirit を「聖なるオバケ」と訳したという笑い話がありますが、翻訳者にとってはそれこそ震えるようなホラーです。

さて、チャックは娘のジャネットからロニーを紹介され、最初はヒッピーだからと拒絶します。でも話を聞くうちに、ロニーがキリスト教の精神を理解し、心のよりどころにしていることを知りました。そして、ロニーとヒッピー仲間を教会に受け入れるのです。
ところが、教会の信徒の中には square な人たちもいて、ヒッピーが来ることに反対します。悩んだチャックは妻のケイ(ジュリア・キャンベル)に相談します。

チャック: So many voices. It’s hard to hear the truth.
(訳) 声(意見)が多すぎる。真実を聞くのが難しい。

ケイ: Truth is always quiet. It’s the lies that are loud.
(訳) 真実はいつも静かよ。騒がしいのはウソのほう。

チャック: It’s complicated.
(訳) 複雑なんだ。

ケイ: The truth is simple.
(訳) 真実はシンプルよ。

それこそシンプルな言葉の会話ですが、真理を突いていてハッとさせられます。ケイの言葉でチャックの心は決まりました。教会で彼は昔からの信徒にもヒッピーにも、同じように語りかけます。

チャック: This place, it is yours. Now that door is open all the time for you. Any time of day.
(訳) この場所はあなた方のものだ。これから、あのドアはいつもあなた方に開かれている。一日中いつでも。

そして、こう続けます。

チャック: And if there are some who don’t like that, well, then, that door is open for you too. It works both ways.
(訳) それが気に入らない者がいたら、その場合も、ドアは開いている。どちら側へも行ける。

「どちら側へも」(both ways)というのは、入っても出てもいい、つまり気に入らなければ出て行ってもいいということ。それだけの覚悟を決めて、語りかけたのです。これを機に、ロニーも説教を担当するようになり、チャックの教会にはヒッピーだけでなく、行き場のない人たちや共感した人たちが大勢押し寄せるようになります。
その頃、グレッグはヒッピーたちの自由さが危険と紙一重だと気づき、心から安らげる場所を探していました。そんな時にロニーと出会い、さらにキャシーに連れられてチャックの教会を訪れます。そして・・・。
その先は、映画を観てのお楽しみ。グレッグ、ロニー、チャック、それぞれの葛藤の行方をぜひ見届けてください。

作品情報
『ジーザス・レボリューション』
監督:ジョン・アーウィン、ブレント・マコークル
出演:キンバリー・ウィリアムズ=ペイズリー、ジョエル・コートニー、アナ・グレイス・バーロウ、ケルシー・グラマー、ジョナサン・ルーミー、ほか

ジーザス・レボリューション

発売・販売元:株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2023 Jesus Revolution, LLC. All Rights Reserved.
2023年11月8日から各配信サイトで視聴可能。
公式サイト