リアルな英語表現が満載の映画のセリフ。こんなふうに言えたらいいな、というフレーズを字幕翻訳者の岩辺いずみさんがピックアップして映画の内容とともにご紹介します。

I’m in love.

2024年の最後にお届けするのは、クリスマスにピッタリの映画『ラブ・アクチュアリー』から。ロンドンを舞台に11歳の少年から、旬をとっくに過ぎた元ロックスターまで、男女19人の愛を描きます。運命の出会いやトントン拍子に進んじゃうエピソードは、クリスマスのご愛敬。どんな奇跡も信じられちゃうのが、この季節の素晴らしいところです。ちょっぴり切ないエピソードもありますが、それも温かく包み込んでくれます。
初公開は20年以上前の2003年(日本公開は2004年)とあって、懐かしい反面、今との感覚の違いを感じる人もいるかもしれません。そういうところも全部ひっくるめて、クリスマスのおとぎ話として楽しみたい作品です。

© 2003 WT VENTURE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

物語の始まりは、クリスマスの5週間前。マーク(アンドリュー・リンカーン)は友人ピーター(キウェテル・イジョフォー)とジュリエット(キーラ・ナイトレイ)の結婚式に、ビートルズの名曲「All You Need Is Love(邦題:愛こそはすべて)」の生演奏を贈ります。この曲のタイトルは、まさに本作を象徴するもの。愛が祝福される一方で、結婚式に参列した小説家ジェイミー(コリン・ファース)は恋人の浮気を知り、傷つきます。また、妻を亡くしたばかりのダニエル(リーアム・ニーソン)も傷が癒えないまま、妻が残した義理の息子サム(トーマス・サングスター)との関係を探っていました。

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サムが部屋に閉じこもりがちなのを心配したダニエルは、思い切ってサムに何を悩んでいるのかを聞きます。

サム:  You really want to know?
(訳)  本当に知りたいの?

ダニエル: I really want to know.
(訳)   本当に知りたい。

サム:   Even though you won’t be able to do anything to help?
(訳)   何も助けられないとしても?

ダニエル: Even if that’s the case.
(訳)   そうだとしてもだ。

サム:   Okay. The truth is – actuallyI’m in love.
(訳)   オーケー。本当のところ、実は、僕は恋をしているんだ。

ダニエル: Sorry? (中略)Aren’t you a bit young to be in love?
(訳)   ごめん? (中略)恋をするには少し若すぎないか?

サム:   No.
(訳)   ううん。

サムはまだ11歳。同級生のジョアンナ(オリヴィア・オルソン)に恋していたのです。声変わり前のかわいらしい声で I’m in love. と、きっぱり言い切るのですから、ダニエルが Sorry? と聞き返し、Aren’t you a bit young to be in love? と言ってしまうのも、無理はありません。この場合の love は、もちろん名詞。「愛、恋、愛情」などを意味する場合は不可算名詞(数えられない名詞)なので不定冠詞 a を使いません。セリフの中では、be in love (with) で「(~に)恋をしている」という表現が使われています。映画のタイトルにもある actually は事実を伝えたり、話を切り替えたりする時によく使われる副詞です。
サムの悩みが恋だと知ったダニエルが「安心した」と伝えると、サムは聞きます。

サム:   Why?
(訳)   どうして?

ダニエル: Well, you know I thought it might be something worse
(訳)   いや、もっと悪いことだと思ってた。

サム:   Worse than the total agony of being in love?
(訳)   恋する苦しみよりも悪いこと?

ダニエル: Ahm no – you’re right.
(訳)   ああ、いや、君の言うとおりだな。

サムの言う the total agony は「(精神的な)苦痛」を意味する名詞 agony に、「完全な」を意味する形容詞 total を付けて「激しい苦しみ」と強調したもの。つまり、サムは相当な恋愛の苦しみを味わっているようです。

恋愛の苦しみを味わっているのは、前述のマークも同じ。結婚してしまったジュリエットにひそかな恋心を抱き、それを抑えるために、ついそっけない態度を取ってしまいます。彼に嫌われていると勘違いしたジュリエットは、マークに言います。

ジュリエット: It would be great if we could be friends.
(訳)     友達になれたら、うれしい。

そして、彼の撮った結婚式のビデオを半ば強引に見て、彼の気持ちに気づくのです。

ジュリエット: They’re all shots of me.
(訳)     全部、私のショットね。

ビデオに映るのはジュリエットのアップばかり。いても立ってもいられなくなったマークは、その場を立ち去るのがやっとです。

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一方、恋人の浮気で傷ついたジェイミーは南仏でポルトガル人のメイド(ルシア・モニス)を好きになり、お互いに言葉が通じずに、やきもきしています。また、イギリス首相になったばかりのデヴィッド(ヒュー・グラント)は、首相公邸の職員ナタリー(マルティン・マカッチョン)にひと目ぼれし、デヴィッドの妹カレン(エマ・トンプソン)は、長年連れ添った夫ハリー(アラン・リックマン)が部下のミアと浮気しているのではと疑い、不安を募らせます。さらに、ハリーの会社で働くサラ(ローラ・リニー)は、同僚のカール(ロドリゴ・サントロ)にずっと片思い。
さまざまな愛の形が入り乱れるのです。

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最後に、ロックスターとして散々好き勝手やり、マネージャーのジョー(グレゴール・フィッシャー)を困らせてきたビリー(ビル・ナイ)は、クリスマスにようやく気づき、次のような言葉を発します。

ビリー: I realized that Christmas is a time to be with the people you love.
(訳)  クリスマスは愛する人たちと過ごす時だと、気づいたんだ。

「愛する人」は恋人や配偶者だけでなく、家族や友人やペット、あるいは推しや憧れのスターかもしれません。それぞれの愛にはハッピーエンドもあり、そうでないものもあります。サムが恋するジョアンナが歌うマライア・キャリーの名曲「All I Want for Christmas Is You」のように、「クリスマスに欲しいのは、あなただけ」と、シンプルに言えないこともあるのです。本作を観ると、自分が望んだ愛の形でなくとも、愛があることが尊いのだと、しみじみ感じさせてくれます。

この機会にぜひ今年1年を振り返り、これまで受け取った愛や与えた愛の1つ1つを噛み締めてみてください。案外、見落としている愛があるかもしれません。
2025年が皆さまにとって愛にあふれた年になることを願って。今年もご愛読いただき、ありがとうございました。

作品情報

  • 『ラブ・アクチュアリー 4Kデジタルリマスター』
  • 監督・脚本:リチャード・カーティス
  • 出演:ヒュー・グラント、リーアム・ニーソン、エマ・トンプソン、アラン・リックマン、キーラ・ナイトレイ、コリン・ファース、ローワン・アトキンソン、ほか
  • 2024年12月6日(金)より新宿ピカデリーBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、グランドシネマサンシャイン 池袋 他にて全国公開!
    詳細はコチラから
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