リアルな英語表現が満載の映画のセリフ。こんなふうに言えたらいいな、というフレーズを字幕翻訳者の岩辺いずみさんがピックアップして映画の内容とともにご紹介します。

※本コラムに掲載の(訳)は、オリジナルの翻訳です。
※掲載の内容は、2024年1月時点の情報です。

It was always gonna be about love.

2024年になりましたね。年末年始は家族と過ごす機会も多かったのではないでしょうか。
今回は新春にピッタリな、家族と愛と人生について描いたリチャード・カーティス監督&脚本の名作『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』からセリフを紹介します。いわゆるタイムループものと呼ばれる時間を行き来するタイムトラベルの話ですが、SFっぽさはゼロに近いロマンティックコメディ。ちょっと内気な青年ティム(ドーナル・グリーソン)とその家族の物語です。

ティムはイギリス南西部の海岸沿いの町コーンウォールに、家族と暮らしています。彼が a fairly odd family(ちょっと変な家族)と呼ぶメンバーは、父と母と妹、それに母方の叔父。特に妹のキャサリン(リディア・ウィルソン)を the most wonderful thing in the world(世界で一番ステキなもの)と呼ぶほど、かわいがっていました。平穏な人生を送るティムは、21歳の誕生日に父親(ビル・ナイ)に呼び出され、重大な秘密を明かされます。

パパ: The men in the family can travel in time. Well, more accurately, travel back in time. We can’t travel into the future.
(訳)うちの家系の男性はタイムトラベルができる。いや、もっと正確に言うと、過去に行ける。未来に行くことはできない。

最初は何の冗談かと信じないティムでしたが、父親の言うとおりに試したら過去に戻ってビックリ。この能力を読書に利用したという父親に対し、ティムは「彼女を作るのに使う」と宣言します。

ティム: For me, it was always gonna be about love.
(訳)僕にとっては、愛にまつわるものになると分かっていた。

gonna は going to の口語で、it was always going to be ~ は「~であることは(初めから)分かっていた」という慣用句。be の部分はbe動詞以外にも <It was always going to+動詞の原形> で使われ、It was always going to happen. なら「起こることは分かっていた(避けられない)」、It was always going to win. なら「勝つのは分かっていた(勝って当然)」の意味になります。
奥手で女性の扱いが苦手なティムにとって、この特殊能力を彼女作りに利用しない手はありません。彼は宣言どおり、ひたすら愛のために使います。その愛は恋愛だけでなく、家族愛や親子愛と、多岐にわたっていくのです。

意気揚々と彼女を作ろうと能力を使うティムですが、そう簡単にはいきません。妹の友人シャーロット(マーゴット・ロビー)に玉砕し、人の心を動かすには、工夫と努力と+αが必要だと気づきます。
家族から離れロンドンで働くようになり、忙しい日々を送るティム。そんな中、母親と同じ名前の女性メアリー(レイチェル・マクアダムス)に出会います。ところが、せっかくいい雰囲気になったのに、同居人のハリーのためにタイムトラベルをして過去をいじったせいで現世が変わってしまい、彼女との出会いが消えてしまいます。慌てたティムは執念でメアリーを捜し出し、出会い直して愛を育むのでした。

やがてメアリーとの結婚を決めたティムは、実家に彼女を連れていきます。そこで、母親(リンゼイ・ダンカン)がメアリーに、ティムのいないところである質問をします。

ママ: What are your faults? I mean, little weaknesses.
(訳)あなたの欠点は何? ちょっとした弱みのことね。

メアリー: Well, I’m very insecure.
(訳)ええと、私は自分にまるで自信がないんです。

ママ: Sweet.
(訳)ステキね。

insecure は不安定さや不確かで危険な状態を指し、人の場合は自信のなさや心配な様子を表します。例えば、She is insecure about her knowledge. なら「彼女は知識に自信がない」の意味になります。
いきなり弱点を聞くのも fairly odd なママらしいですが、それに対して自分の自信のなさを素直に伝えるメアリーも、ちょっと変わっているかもしれません。それを Sweet. と受け入れてもらえたら、メアリーじゃなくてもママを好きになるでしょう。さらに、メアリーはこう続けます。

メアリー: And, of course, I have a weakness for your son.
(訳)それに、もちろん、息子さんにも弱いです。

ママ: So do I.
(訳)私もよ。

メアリーの言う weakness(弱み)は「惚れた弱み」、つまり、大好きということ。同じ男性を“推す”女性同士の喜びと楽しげな様子が伝わります。さらに、母親はメアリーに「舞い上がらせないように内緒ね」と言うのです。
一方、ティムは父親に彼女の印象を尋ねます。

ティム: What do you think of her?
(訳)彼女をどう思う?

パパ: I like her more than you already.
(訳)とっくにお前のことより彼女が好きだ。

What do you think of ~ は「~をどう思う?」という慣用句。パパは「息子のことよりも彼女が好き」と答えます。注意したいのは、I like her more than you already. の you は目的格で、ここでの比較対象は her と you ということ。I (自分の気持ち)と you(相手の気持ち) を比較する場合は、I like her more than you do. で「君が(彼女を)好きな度合いよりも、私のほうが彼女を好き」という意味になります。
それにしても、こんな家族に迎え入れられたら、どんな自信のなさも吹き飛んじゃいますね。

このあと、2人の結婚式で父親が行うスピーチの言葉がステキなんです。少し長いですが、紹介します。

パパ: I’d only give one piece of advice to anyone marrying.
We’re all quite similar in the end.
We all get old and tell the same tales too many times.
But try and marry someone kind.
And this is a kind man with a good heart.
(訳)私が結婚する人にするアドバイスは1つだけ。
私たちは結局のところ、みんな同じようなものだ。
誰もが年を取り、同じ話を何度も繰り返すようになる。
だけど、優しい人と結婚するといい。
彼(ティム)は優しくて心根のいい男だ。

とてもシンプルな英語のスピーチなので、説明は必要ないですね。パパは息子が a kind man with a good heart であることを誇らしいと述べます。

ティムは幸せな日々の中で、能力を使うこともなくなっていきます。ところが、大切な妹キャサリンは「優しくない男」のせいで、どんどん自信を失っていました。そして、ティムにこう言います。

キャサリン: I’m the faller. Every family has, like, someone who falls. Maybe I’m our faller.
(訳)私は落ちこぼれよ。どの家族にも、落ちこぼれる人がいる。きっと私はうちの家族の落ちこぼれなの。

ご想像どおり、faller は動詞 fall(落ちる)に人を表す接尾辞 -er をつけて「落ちる人=
落ちこぼれ」の意味
。自分を our faller(私たちの中の落ちこぼれ)と呼ぶなんて、悲しすぎます。ティムはタイムトラベルで何とかしようとしますが、それには大きな障害がありました…。

最後に、パパが教えてくれる secret formula of happiness(幸せになる秘訣)は、本作のテーマがギュッと詰まったもの。さらに、ティムは新たな秘訣を見つけます。その秘訣とは何でしょう? それを知れば、きっと人生の見え方が変わります。ぜひ本作をご覧ください。2024年が皆さまにとって、愛にあふれた年になりますように。

作品情報
『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』
監督:リチャード・カーティス
出演:ドーナル・グリーソン、レイチェル・マクアダムス、ビル・ナイ、マーゴット・ロビー、ほか

アバウト・タイム

  • 『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』
    Blu-ray: 2,075 円 (税込) / DVD: 1,572 円 (税込)
    発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
    (C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
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