リアルな英語表現が満載の映画のセリフ。こんなふうに言えたらいいな、というフレーズを字幕翻訳者の岩辺いずみさんがピックアップして映画の内容とともにご紹介します。

Always be yourself.

2000年にイギリスで公開以来、世界中でファンを魅了し続ける映画『リトル・ダンサー』。大人気ミュージカル『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』の基になった映画と言ったほうが、今はピンと来るでしょうか?
イングランド北東部の炭鉱町が舞台とあって、イギリス英語に慣れている人でも聞き取りのハードルは高いかもしれません。それでも、率直な言葉の中に繊細な気持ちが見え隠れするセリフの数々に、心をつかまれるはず。本コラムでお気に入りのセリフを見つけて、映画で聞き取ってみましょう。

© 2000 Tiger Aspect Pictures (Billy Boy) Ltd.

舞台は1984年、不況にあえぐ炭鉱町では労働組合がストを行い、組合派とそれに従わずに炭鉱で働き続ける「スト破り」派が対立しています。11歳のビリー(ジェイミー・ベル)は母親を亡くし、組合派の父親(ゲイリー・ルイス)と兄(ジェイミー・ドラヴェン)、それにおばあちゃん(ジーン・ヘイウッド)と4人暮らし。踊ることとピアノを弾くことが大好きですが、父親にも兄にも「うるさい」「やめろ」と怒鳴られてばかり。
父親に命じられてボクシング教室にイヤイヤ通いますが、偶然目にしたバレエ教室のレッスンに興味を引かれて、参加します。バレエのウィルキンソン先生(ジュリー・ウォルターズ)に翌週も来るよう誘われますが、ビリーはボクシング教室があると断ります。

先生: I thought you enjoyed it. Please yourself, darling.
(訳) (バレエを)楽しんでいたように見えたわ。好きにして、ダーリン。

Please yourself の please は後ろに動詞を置いて「(どうぞ)~してください」という意味で用いるのが馴染み深い単語ですね。ここでは please(喜ばせる)自体が動詞であり、please oneself で「自分を喜ばせる」、つまり「自分の好きなようにする」という意味になります。「好きにして」と言われたビリーは、結局、翌週もその翌週も、ボクシングに行くふりをしてバレエのレッスンに通います。
バレエの本をコッソリ手に入れ、洗面所で練習し、先生の厳しいレッスンにも口答えをしながら食らいつきます。

先生:  You’re not concentrating.
(訳)  あなたは集中してない。

ビリー: Yes, I am concentrating.
(訳)  いや、僕は集中してる。

先生:  You’re not even trying.
(訳)  やろうともしていない。

not even trying とは、ずいぶんな言われようですね。それでも、何と言われようとへこたれず、新しい動きを覚えるのが楽しくてたまらない様子のビリー。見ているこちらまで、体を動かしたくなっちゃいます。
だけど、楽しい時間もつかの間。やがて、父親にボクシングをサボってバレエをやっていたことがバレてしまいます。バレエは女の子がやるものだと頭ごなしに怒る父親に、ビリーは男性のダンサーもいて、アスリートのようだと説明します。

© 2000 Tiger Aspect Pictures (Billy Boy) Ltd.

ビリー: What’s wrong with ballet?
(訳)  バレエの何が悪いの?

父親:  What’s “wrong” with ballet?
(訳)  バレエの何が「悪い」だと?

ビリー: It’s perfectly normal.
(訳)  まったく普通だよ。

父親:  “Perfectly normal”?
(訳)  「まったく普通」?

バレエなど見たこともなく、バレエは女性がやるものだと思い込む父親は、聞く耳を持ちません。

父親:  For girls, not for lads, Billy. Lads do football, or boxing, or wrestling.
(訳)  (バレエは)女の子のためのもので、男がやるものじゃない、ビリー。男はサッカーやボクシングやレスリングをやるんもんだ。

lad は「少年、若い男性」を指す単語で、少し古風でくだけた言い方。仲間や同僚をまとめて the lads と呼ぶこともあります。これに対し、若い女性を指す単語は lass。どちらもイギリス、特にスコットランドや北イングランドで使われることの多い言葉です。football はイギリスでは「サッカー」、アメリカでは「アメフト(アメリカンフットボール)」を指すので注意。
さて、それでも負けずに父親に食い下がるビリー。

ビリー: I don’t see what’s wrong with it.
(訳)  何が悪いのか分からない。

父親:  You know exactly what’s wrong with it.
(訳)  何が悪いのか、はっきり分かってるはずだ。

先ほどからビリーが繰り返し言う what’s(what is) wrong は「何が悪いのか、いけないのか」と問う決まり文句What’s wrong with A で「Aの何が悪いのか」になります。単純に質問する場合だけでなく、「(Aに)悪いところなんかない」と反語的な意味合いでも、よく使われます。
ビリーが言う What’s wrong with ballet? も反語的な意味合いで使っていることが、そのあとのセリフ I don’t see what’s wrong with it. からも分かります。
それに対し、父親はきちんと説明できずに「ダメだ」の一点張り。とうとうビリーは父親に I hate you!「大嫌い!」と叫んで家を飛び出します。
先生の家に行き、父親が猛反対しているのでバレエをやめるしかないと伝えるビリーに、先生は問いかけます。

先生:  That’s alright with you, is it?
(訳)  あなたは、それでいいの?

ビリー: I suppose so.
(訳)  仕方ないよ。

先生:  You should stand up to him.
(訳)  彼(お父さん)に立ち向かうべきよ。

I suppose so.「そうだと思う(=仕方ない)」と消極的に肯定するビリーに、You should stand up to him. 「彼(お父さん)に立ち向かうべきよ」と、ビリーを奮起させる先生。さらに先生は、ロイヤル・バレエ学校のオーディションを受けないかと持ちかけます。踊りたくてたまらないビリーは、先生と隠れて特訓をすることにしました。

© 2000 Tiger Aspect Pictures (Billy Boy) Ltd.

さて、特訓の初日にダンスのインスピレーションとして「特別な物」を持ってくるよう言われたビリー。彼が先生に差し出したのは、お母さんからの手紙でした。その手紙の結びの一文は次のような言葉でした。

母親:  Always be yourself. I’ll love you forever. Mom.
(訳)  いつも、あなたらしくいて。永遠に愛してる。ママより。

Always be yourself. 「いつも、あなたらしくいて」とは、周りに反対されてもバレエをやりたいビリーの背中を強く押してくれる言葉ですね。手紙全文を紹介したいところですが、それは映画を観てのお楽しみに。ミュージカル化に当たっては、エルトン・ジョンが音楽を作曲しているので、こちらもぜひ聴いてほしい! グラムロックやパンクロックがメインの映画とは、また違った魅力があります。

果たしてビリーは無事にオーディションを受けられるのか? 父親の理解を得られるのか? 先生をはじめ、子どもの本気を理解した時の大人たちの行動にもグッと来ます。このあとの展開は映画を観てもらうとします。最後に、少し垣間見せてしまうかもしれませんが、ビリーと父親の会話を紹介します。

ビリー: I think I’m scared, Dad.
(訳)  僕、怖がってるみたい、パパ。

父親:  That’s okay, son. We’re all scared.
(訳)  いいさ、息子よ。俺たちは、みんな怖がってるんだ。

新しいことに挑戦するのは、誰もが怖い。そんな時のために、Always be yourself. の言葉を皆さんに贈ります。

作品情報

  • 『リトル・ダンサー デジタルリマスター版』
  • 名作がスクリーンに帰ってきた!
  • 監督:スティーヴン・ダルドリー
  • 脚本:リー・ホール
  • 出演:ジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ、ジェイミー・ドラヴェン、ゲイリー・ルイス、ほか
  • 2024年10月4日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開
    詳細はコチラから
  • © 2000 Tiger Aspect Pictures (Billy Boy) Ltd.