映画で学ぶ英語表現 vol.16 『ドラマなふたり』

リアルな英語表現が満載の映画のセリフ。こんなふうに言えたらいいな、というフレーズを字幕翻訳者の岩辺いずみさんがピックアップして映画の内容とともにご紹介します。
Do you want to start over?
皆さん、夏を楽しんでいますか? ワクワクするようなバカンスの予定がある人もない人も、ぜひ映画館へ。結婚間近のラブラブのカップルが、あるきっかけから疑心暗鬼のどん底に落ちてヒヤヒヤするブラックコメディなんて、いかがでしょうか?
今回ご紹介するのは、ロバート・パティンソンとゼンデイヤ主演の『ドラマなふたり』(原題:The Drama)。ノルウェー出身のクリストファー・ボルグリ監督(『ドリーム・シナリオ』)が、人気スタジオのA24とタッグを組み、全米で大激論を巻き起こした異色のラブコメです。
© 2026 Dramatic Movie Rights LLC. All Rights Reserved.
舞台はアメリカのボストン。イギリス人のチャーリー(ロバート・パティンソン)は、カフェで本を読むエマ(ゼンデイヤ)にひと目ぼれ。その本を読んだことがあるふりをして、勇気を振り絞って話しかけます。ところが、エマは何の反応も示しません。無視されたと思い、肩を落として離れようとするチャーリー。それに気づいたエマが、片方の耳が聞こえないことを伝え、チャーリーに尋ねます。
エマ: Do you want to start over?
(訳) 最初からやり直したい?
チャーリー:Um…
(訳) ええと……
エマ: We could just try it again? Maybe?
(訳) 私たち、もう一度やり直してみるのはどう? よかったら?
チャーリー:You wanna try… Just do it again?
(訳) もう一度……、やってみろって?
エマ: Yeah. Do it again.
(訳) そう。もう一度やって。
エマの優しい提案に、チャーリーはホッとして、声をかけるところからやり直します。エマが言う start over は「最初からやり直す、仕切り直す」という意味。この場合の over は over the table(テーブルの向こう)のような場所を指す前置詞ではなく、start を修飾する副詞です。「もう一回、改めて」という、繰り返し・やり直しの意味を持ち、over and over(何度も何度も)のようにも使われます。続いて try it again(もう一度試す)、do it again(もう一度やる)と、「やり直し」を意味する言葉が繰り返されますが、この「やり直し」こそ、本作のテーマの1つでもあります。他にはどんな場面で出てくるのか、ぜひ注意して聞いてみてください。
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エマと付き合うことになり、チャーリーは有頂天。エマがどんなに素敵な女性か、友人のマイク(ママドゥ・アティエ)に話しながら、自分が悩んでいる時にエマがふざけて笑わせてくれたエピソードを思い返します。
チャーリー:Emma, I’m being serious. It’s not funny.
(訳) エマ、僕は真剣なんだ。笑い事じゃない。
エマ: No, I agree with you. This is not funny at all.
(訳) そう、あなたの言うとおり。まったく笑い事じゃない。
チャーリー:It’s very serious.
(訳) すごく深刻なことだ。
エマ: You’re laughing.
(訳) 笑ってるくせに。
チャーリー:I love how you always find a way to turn my drama into a comedy.
(訳) 君がいつも僕の揉め事を笑いに変えてしまうところが好きだ。
最後のチャーリーのセリフにご注目。<I love how + 主語+動詞>は「(主語が)〜するところ[そのありさま]が好き」、<turn A into B>は「AをBに変える」の意味です。
さらに、映画の原題(“The Drama”)にもなっている drama という言葉が出てきましたね。日本語で「ドラマ」と言うと、テレビや動画サイトなどの番組としての「連続ドラマ」を指すことが多いのですが、英語の drama は少し違います。ギリシャ語の「行為・所作」に由来する「演劇」や「芝居」を指すだけでなく、日常では「劇的な事件・状況、騒動、修羅場」といった意味でもよく使われます。例えば、make a drama out of something なら「ささいなことを大げさに騒ぎ立てる」という意味。英語の drama が持つ “芝居掛かって波乱に満ちた” ニュアンスは、日本語の「ドラマ」より、むしろ「ドラマチック(劇的)」のほうが近いのです。つまり、原題には「恋愛ドラマ」と「騒動」の両方の意味が含まれているんです。
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さて、結婚を1週間後に控えた二人は、介添人を務めるマイクと妻のレイチェル(アラナ・ハイム)を伴い、披露宴のメニューを決める試食へ出かけます。その後4人は酔った勢いで、これまでの人生でやらかした最悪の行いを打ち明けるゲームを始めます。まずはマイクの打ち明け話。最初は言いよどんでいたマイクに、レイチェルが放った言葉がこちら。
レイチェル:Don’t sugarcoat it.
(訳) ごまかさないで。
sugarcoat は文字どおり「砂糖で覆う」という意味から、「口当たりをよくする、体裁をよくする」の意味で使われます。つまり Don’t sugarcoat it. は、「事実をはっきり話して」ということ。マイクのあとにレイチェルが告白し、チャーリーも話し、残るはエマだけ。けれど、エマはどうしても言いたくない様子。
レイチェル:Give us something good. Give us some hot tea, Emma.
(訳) いいネタを聞かせてよ。すごい暴露話をして、エマ。
レイチェルの言う something good は、いわば盛り上がるような「いいネタ」のこと。hot tea(または単に tea)はスラングで、「ゴシップ、ぶっちゃけ話」を意味します。spill the tea なら「ここだけの話を暴露する」こと。嫌がるエマに、白状するように迫るレイチェルの執拗さは、ちょっと怖いくらい。とうとう、エマは隠していた秘密を口にします。ところが、この秘密に3人はドン引き。エマを見る目が急に変わってしまいます。
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さて、そこから始まるドラマが物語の肝になりますが、4人の「最悪の行い」が何かは映画を見てのお楽しみ。ただ、1つお伝えしておきたいのは、4人の「最悪の行い」をどう感じるかは、育った環境や文化的背景など見る人の価値観によって変わるということ。エマの秘密がほかの3人の行いに比べて、そこまで「最悪」なのか。ほかの3人の行いはどうなの?
舞台はアメリカ、監督はノルウェー人、劇中の主人公はイギリス人とアメリカ人のカップル。そこにアメリカ人の友人知人が絡み、背景の異なる世界中の観客がそれを見つめます。当然ながら生じるのが、文化や常識の違いや、感覚のズレ。それが静かなさざ波となって、奇妙な違和感を抱かせるのが、本作のまた深いところ。
お互いの闇を知ってしまったチャーリーとエマは、start over できるのでしょうか? ドラマの行方を、ぜひ劇場で見届けてください。
作品情報
- 『ドラマなふたり』
- 監督・脚本:クリストファー・ボルグリ
- 製作:ラース・クヌードセン、アリ・アスター
- 出演:ゼンデイヤ、ロバート・パティンソン、アラナ・ハイム、ママドゥ・アティエ、ほか
- 2026年8月21日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
- 配給:ハピネットファントム・スタジオ
- 詳細はコチラから
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字幕翻訳者・ライター
カナダに1年、スイスのジュネーブ(フランス語圏)に1年留学。大学卒業後、雑誌のライターを経てシカゴ大学大学院に留学し、アメリカに3年半滞在。帰国後に映像翻訳を学び、2002年から英語、フランス語の作品を中心に字幕翻訳を手がける。代表作に映画『モディリアーニ!』『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』『We Live in Time この時を生きて』『Playground / 校庭』『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』『ダンサー イン Paris』『The Son / 息子』『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』『mid 90s ミッドナインティーズ』など。






