よく見かける表現だけど、実は使い方が「あいまい」な英語ってありませんか? そんな「あいまい英語」を、東進ハイスクール・東進衛星予備校の英語科の人気講師・大岩秀樹先生がスッキリ整理整頓してくれるコラムです。もうこれで「あいまい英語」とサヨナラできる!

これ、あれ、それ(指示代名詞)の使い分け

「これ、誰の本?」「あれ、誰の本?」

これらは英語で 「Whose book is this?」「Whose book is that?」と表現できますが、そう言えば this 「これ」と that 「あれ」「それ」って何が違うんでしょう? 日本語の「これ」「あれ」「それ」と全く同じなのでしょうか? ……そもそも、日本語の「これ」「あれ」「それ」も私たちは感覚的に使い分けていると思うのですが、その「感覚」は英語にも共通するものなのでしょうか? 今回は this [these] と that [those] の英語的な感覚に迫ってみましょう! では、早速ですが、これらの文の違いはどんな感じだと思いますか?

This is a good watch.  これはよい腕時計だ。  (1個)

That is a good watch.  あれはよい腕時計だ。  (1個)

これらは、日本語とほぼ同じ感覚だと思うのですが、この感覚を言葉にして説明すると、こんな感じでしょうか。

this(これは・この)

話し手から「近いところ」にいる人・物を話題にする。
(※人・物が複数の場合は、theseを用いる)

that(あれは・それは・あの・その)

話し手から「遠いところ」にいる人・物を話題にする。
(※人・物が複数の場合は、thoseを用いる)

お店で、ショーケースに入ってはいるけど、手の届きそうな距離の腕時計を眺めながら、または、自分が実際に身につけている、あるいは、触れようと思えば触れられる腕時計を指して発言するなら①の表現がピッタリでしょうかね。一方、同じショーケースに入っていても、手が届かないくらいの距離で展示してある場合や、見ず知らずの人が身につけている、距離的には近くても手に触れることができないような腕時計を指して発言するなら②の表現がピッタリになります。

つまり、「近いところ」「遠いところ」を判断するときには、実際に手が届くかどうかという「物理的な距離」だけでなく、「心理的な距離」も関わっているということなのです。ここが、this と that の使い分けのポイントになります(一緒にいても、心理的な距離で「友だち」と感じたり「恋人」と感じたりするのと似ている気がするのは、私だけでしょうか)!

では、もう少し、this と that を深めてみましょう。これらは、どんな違いがあると思いますか?

③ I like this music.  私はこの音楽が好きだ。

④ I like that music.  私はあの音楽が好きだ。

わかった! 音源が近ければ③で、遠くから聞こえてきたら④だ! ……ではなさそうですよね。街中で、どこからともなく聞こえてきた音楽でも「この曲好き!」って言いますもんね。では、答えですが、実は this や that は時間的な距離も示すこともできる便利ツールなんです。進行中の出来事や、まさに始まろうとしている状況などは③のように this で表現しちゃいます。一方、終わったばかりの出来事も含め、過去の出来事や状況などは④のようにthat で表現するといいんです。つまり、③はまさに音楽を聞きながら言うのにピッタリな表現で、④は音楽を思い出しながら言うのにピッタリというわけですね。

そして、this と that を使えば、こんなことも表現できます。

⑤ Tell me about this man.

⑥ I don’t like those men.

これは、日本語に訳すと感覚がわかりにくくなるので、和訳はなしで。もちろん、物理的な距離を表現して⑤⑥のように言うこともありますが、「容認・好意」のようなポジティブな内容にはthis [these]、一方で「拒否・嫌悪」のようなネガティブな内容には that [those] を使うことがあります。心理的な距離感がわかっていると、理解しやすいですよね!

では、this と that の基本的な違いはわかってきましたので、ぼちぼち復習です! これらの文からどんなイメージが感じられますか?

⑦ Do you like these clocks?

⑧ Do you like those clocks?

⑦は手で触れることができる距離の置き時計を見ながら、または、置き時計マニアの人が部屋に並べた置き時計コレクションを見せながら友人に発する一言のような感じがしますよね(私はしました)。一方、⑧は手で触れることができない距離の置き時計を見ながら、または、見ず知らずの人が、おもむろに机の上に置き時計を並べ始めたときに友人に発する一言のような感じがします(露天商を営んでいる方なのかもしれません)。

では、最後はだめ押しで、間違い訂正問題に挑戦していただきましょう! 状況を考えて、次の文を「より適切な表現」に修正してみてくださいね!

⑨ Who said this?

⑩ Listen to that.

いかがでしたでしょうか? ⑨は「誰が言ったの?」なので、発言の内容は過去ですよね。つまり、④と同じような感覚を伝えたいので、「Who said that?」とするとバッチリ伝わります。そして最後の⑩は、「聞きなさいよ」という内容になるので、「Listen to this.」とすればバッチリです。進行中の出来事や、まさに始まろうとしている状況などは③のように this が適切です。自分が聞いている最中の音楽や、まさに始まろうとしている話などを聞くように促しているこの状況では this の方がしっくりきますよね。

というわけで、this [these] と that [those] の使い分けの基本はいかがでしたでしょうか? もちろん、今回の使い分けが this や that の全てではないですが、今回のポイントが身に付けば、きっとこれから出会う this や that も容易に使い分けられるはずです。ポイントを身に付け、ぜひ新しい出会いを楽しみにしていてくださいね。それでは、また次回、お目にかかりましょう! 今回はここまで! お疲れ様でした。