多種多様な英語が飛び交うこの世の中で、私たちには、さまざまなタイプの英語を理解する力が必要とされています。
まずは2つの主軸となるイギリス英語とアメリカ英語の違いをしっかり理解することから始めましょう。このコラムでは、旺文社『オーレックス英和・和英辞典』編者の野村先生が、両者の違いを楽しくレクチャーしてくれます。
*本記事では、イギリス人の発言として用いられる場合は英式の綴り、アメリカ人の発言として用いられる場合は米式の綴りを採用しています。

お茶でもいかが?

“Would you like some tea?” “I don’t drink tea, but would have a cup of coffee.”
(「お茶でもいかが?」「お茶は飲まないのですが、コーヒーならいただきます。」)

あるサイト*1に投稿されていたアメリカ人の体験談の一節です。彼女は初めてイギリスに住む夫のお母さんを訪ねることになり、事前に夫から「母さんが料理をふるまってくれるよ」と言われていたので楽しみにしていましたが、食事が出てくることはありませんでした。お義母さんに「お茶でもいかが?」と勧められたのに、このように返したから気分を害されたのでしょうか。 
*1 https://qr.ae/pCOKXf

嫁姑のバトルが始まるのかと思ったら、すぐ後にこんな文が続いていました。
It turns out that many people in the UK call a late day meal ‘tea’!! No one told me so I was confused for quite some time.(イギリスの多くの人が夕飯のことを tea と呼んでいたのです。誰も教えてくれなかったので、かなりの間、戸惑ったままでした。)
単にイギリス英語の tea のもう1つの意味を知らなかったための行き違いというオチでした!

■語彙の違い

イギリス英語とアメリカ英語の一番の違いは前回お話しした発音ですが、それに次いで顕著なのは語彙*2です。
*2 「語彙(vocabulary)」は、個々の単語ではなく、1つの言語や方言、分野などで用いられる単語の総体を指します。

A SHORT GUIDE TO GREAT BRITAIN(1942年)は、第二次世界大戦で英国に赴く米兵向けに合衆国戦争省が作成した冊子です。英国の文化や制度の基本を解説したもので、“Don’t be a show off.”(自慢してはいけない)、“Never criticize the King or Queen.”(王や女王を批判するべからず)などの戒めが並びますが、言葉の違いについてもページを割いています。言語が障壁になる危険性が当時から認識されていたわけです。

近年、映画やテレビドラマ、ニュースなどを通して、また観光やビジネス上の交流が盛んになったため、その頃よりは互いの英語についての理解が進んでいますが、それでも今なお言葉の違いが誤解や混乱の原因となることがあります。
そこで今回は語彙の英米差について、できるだけ実例*3を挙げながらお話しすることにします。私たちが習得するのは英米どちらか一方でよいのですが、英語圏の現状を考えると、他方もある程度、知識として備えておくのが賢明だからです。
*3 使用が英米のどちらかに限定されず、頻度が違うだけのもの(辞書では《主に米》、esp UK などと表記)も含まれています。

語彙の違いには大きく分けて2つのベクトルがあります。

1.別の語が同じ意味を表す

  • a. アメリカ人学生: The gate to the laboratory building was locked, so I climbed over it and tore my pants!
  • (実験棟の門に鍵がかかっていたのでよじ登ったら、pants が破れちゃった。)
  • イギリス人学生: But how could you tear your pants without tearing your trousers?
  • (でも、どうしたらズボンがそのままで、pants だけが破れるの?)
  • b. The Thatcher government had more success than the Reagan administration in the drive for deregulation.
  • (サッチャー政権はレーガン政権より規制緩和の推進に成果を上げた。)

a. 英国の大学に留学中のアメリカ人学生と友人のイギリス人学生のやりとりで、「ズボン」を表す単語が英米で異なっています(米:pants / 英:trousers。※英で pants は「下着のパンツ」)。
b.「政権」を意味する語が対比されています(米:administration / 英:government)。

このようなペアはたくさんあります。主なものを挙げておきますが、いずれも日常的に使われるので、この際、覚えてしまいましょう。

●食べ物・飲み物に関する語

意味 米語 英語
砂糖菓子 candy sweets
ポテトチップス chips crisps
クッキー cookie biscuit
トウモロコシ corn maize
ポテトフライ French fries chips
ウイスキーのソーダ割 highball whisky and soda
持ち帰り takeout takeaway

●旅行や交通に関する語

意味 米語 英語
手荷物 baggage luggage
車掌 conductor guard
片道切符 one-way ticket single ticket
往復切符 round-trip ticket return ticket
切符売り場 ticket office booking office
プラットフォーム track platform
鉄道 railroad railway
地下鉄 subway underground
(車の)フェンダー fender wing
(車の)ボンネット hood bonnet
(車の)トランク trunk boot
(車の)ウィンカー turn signal/blinker indicator/winker
ガソリン gasoline petrol
(車への)便乗 ride lift
駐車場 parking lot car park
高速道路 expressway motorway
歩道 sidewalk pavement
(ほかの車に)道を譲る yield give way

●建物・施設・設備に関する語

日本語 米語 英語
アパート apartment flat
エレベーター elevator lift
出口 exit way out
1階 first floor ground floor
蛇口 faucet tap
store shop
(※store は英では「大型店」)
薬局 drugstore chemist’s

●衣類や日用品、生活に関する語

日本語 米語 英語
タキシード tuxedo dinner jacket
肌着 undershirt vest
ゴミ garbage rubbish
懐中電灯 flashlight torch
can tin
郵便 mail post

●その他の語

日本語 米語 英語
fall autumn
休暇 vacation holiday
夏時間 daylight-saving time summer time
stocks shares
専攻する major specialize
並ぶ、行列 line queue
病気で sick ill

2.同じ語が別の意味を表す

  • a.アメリカ人: Our sales manager will be with you momentarily.
  • (営業部長は momentarily に参ります。)
  • イギリス人: But I need at least an hour!
  • (いや、少なくとも1時間は要りますよ。)
  • b.英国代表: We propose that our motion should be tabled.
  • (我が国の案が table されるように求めます。)
  • 米国代表: But it’s a very good one. Why do you want to table it?
  • (えっ、とてもいい案なのに、なぜ table したいのですか。)

a. momentarilyは米では「まもなく」の意味で用いられることが多いのですが、それを本来の「一瞬」の意味で解したイギリス人が戸惑っている場面です。
b. ある会議で英国と米国の代表が交わした会話ですが、tableの意味が英米で逆なため(米:棚上げする / 英:審議に付す)、頓珍漢なやりとりになりました。

このケースにあてはまる語には次のようなものがあります。

米での意味 英での意味
Anglican 英国の 英国国教の
avenue 大通り 並木道
billion 10億 1兆
(※現在は10億が一般的)
casket ひつぎ 宝石箱
cider (※日本語の「サイダー」は soda pop) リンゴジュース リンゴ酒
chips*4 ポテトチップス ポテトフライ
fire company 消防隊 火災保険会社
graduate 大学・学校を卒業する 大学を卒業する
pavement*4 車道 歩道
public school 公立学校 名門私立学校

*4 1.で挙げた例もその語を中心に考えると2.として分類できる場合があります。

単語が原因で誤解が生じても、たいていの場合、場面・文脈の助けや互いの確認によって解消します。でも、例えば、Please meet me on the first floor.(1階(米)/2階(英)でお待ちしています。)はどうでしょう。せっかく待ち合せたのに、会えないまま終わってしまうかもしれません(すれ違いから始まるロマンスもある?)。もっと深刻な事態になりかねないのは billion です。本来、「100万(million)の2乗(bi-)」で「1兆」を表していましたが、混乱を回避するために、今では英が米に歩み寄って「10憶」の意味に統一されるようになりました。

■なぜ語彙の違いが生じたのか

イギリスから渡った人たちはその時点の英語を持ち込んだはずなのに、なぜ違いが生まれたのでしょうか。

1. 他の言語からの借用

ネイティブアメリカン(先住民)やその後、続々と渡ってきたイギリス系以外の移民の言語から数多くの単語を拝借しました。特に本国のイギリスになかった事物に名前を付ける必要に迫られたときに、新たに言葉を作るより手間が省けるからです。 
英米の単語の違いというテーマからは少し離れますが、以下に由来となった主な言語ごとに米語として誕生した代表的な語を記します。これらのうち、イギリス本国でも使用されるようになったものも多くあります。

●ネイティブアメリカンの言語

  • capybara(カピバラ)/ moccasin(モカシン靴)/ persimmon(柿)/ raccoon(アライグマ)/ skunk(スカンク)/ Kentucky、Michigan、Ohio など州名の約半数

●スペイン語

  • alligator(ワニ)/ barbecue(バーベキュー)/ cafeteria(カフェテリア)/ canoe(カヌー)/ canyon(峡谷)/ hurricane(ハリケーン)/ marijuana(大麻)/ potato(ジャガイモ)/ tomato(トマト)/ California、Florida、Los Angeles、Las Vegas、San Francisco などの州名・地名

●オランダ語

  • boss(上司)/ cookie(クッキー)/ Santa Claus(サンタクロース)/ sleigh(そり)/ waffle(ワッフル)/ Yankee(アメリカ人)/ Broadway、Brooklyn、Wall Street などの地名

●ドイツ語

  • delicatessen(惣菜(店))/ frankfurter(フランクフルトソーセージ)/ hamburger(ハンバーガー)/ lager(ラガービール)/ noodle(麺)/ pretzel(プレッツェル)/semester((2学期制の)学期)/ seminar(セミナー)

●フランス語

  • caribou(トナカイ)/ chowder(チャウダー)/ prairie(大草原)/ pumpkin(カボチャ)

2. 英語の転用と創作

持ち込んだ英語を新しい環境に合わせて変えることもありました。
例えば、corn は英本国では「小麦などの穀類」を意味していましたが、アメリカではネイティブアメリカンに栽培法を教わったトウモロコシが主要な穀物になったため、トウモロコシを corn と呼ぶようになりました。

やがて国として熟してくると、独自性を発揮して新しい英語を生み出します。今ではほとんどが英米の共有財産になっています。
cocktail(カクテル)、poker face(ポーカーフェイス)、garage sale(ガレージセール) などはいかにもアメリカの香りがする表現です。そのほか、野球用語のほぼすべてが米国産で、クルマ関係も米独自の言い方を発展させてきました。

<例> windshield(フロントガラス)※英では windscreen

20世紀に入ってポップカルチャーが開花してからは、エンターテインメント関係の表現がアメリカで次々に誕生しました。

<例> blues(ブルース)、jazz(ジャズ)、movie(映画)、musical(ミュージカル)、rock and roll(ロックンロール)、show business(ショービジネス)、soap opera(メロドラマ)、talk show(トークショー)

3. 古い英語の保持

一般にアメリカ英語のほうが新しいイメージがありますが、イギリス本国の英語が変化しているのに、入植者が渡来した当時の言い方がアメリカ側に残っていることがあります。いわば、本家は新しい料理を工夫し続けているのに、暖簾分けされた店が伝統の味を守っているようなものです。

単語の例を挙げると、米で「秋」を意味する fall は、the fall of the leaf(落葉の時節)に由来する16世紀以来の表現で、イギリス人には古風に響きます(英 autumn)。米の口語で用いられる「…と思う」の意の guess(<例> He’s not coming, I guess.)は英では18世紀には廃れてしまいました。loan を「貸す」の意味で使ったり、mad を「怒って」の意味で使ったりする米語も、英の古い用法が残ったものです。「鉄道」の railroad も古語保存の例にあたります(英では今は railway)。

■英語は語彙が豊富

英語は誕生以来、ギリシャ語やラテン語、フランス語を始めとする諸言語から貪欲に言葉を取り入れてきたため、世界で最も豊富な語彙を持つ言語と言われるまでになりました*5。イギリスの植民地由来の単語やアメリカ英語で新しく加わった表現も英語全体の語彙拡大に貢献しています。
*5 今ではむしろ他の言語に言葉を供給する側に回っています。

様々な言語から似たような意味の語を借用したため、英語には無数の類義語が共存しています。今回、お話しした英米間の異同は、地域による違いの典型例ですが、語源が異なる類義語もたくさんあります。

  • <例> 「買う」buy (E) / purchase (F)
  • 「上る」rise (E) / mount (F) / ascend (L)
  • 「尋ねる」ask (E) / question (F) / interrogate (L)
  • 「同情」compassion (L) / sympathy (G)
  • [E:英語本来語、F:フランス語、L:ラテン語、G:ギリシャ語]

これらの類義語を使いこなせるかどうかが表現力を左右すると言えます。似たような意味の単語をばらばらに覚えるのではなく、それらをひとまとめにして、辞書の類語欄なども参照しながら系統的に学習することをお勧めします。

著者の紹介
野村 恵造
元東京女子大学教授。専門は英語学。旺文社の英語辞書LEXシリーズの編集主幹。
検定教科書『Vision Quest Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』(啓林館)の監修のほか、著書に『ジョンブルとアンクルサム―イギリス英語とアメリカ英語』(研究社 2013)、『英語のスタイル―教えるための文体論入門』(共著 研究社 2017)、『言葉にこだわるイギリス社会』(共訳 岩波書店 2003)など。