※この記事は、2021年7月14日に配信された「旺文社ココマナ編集部note」の記事を一部加筆・修正のうえ、再掲載したものです。

こんにちは。

旺文社ココマナ編集部のNEO岸です。

日本人のヘンな英語に対するネイティブの正直な意見を聞いてみるNEO部。
第3回のテーマは「英語で遠回しに断れる?」です。

■断るときはやんわりと

頼みごとを断るときは、角が立たない言葉を選びたいですね。
そんなときに重宝するお断りフレーズといえばこれ。
「それはちょっとむずかしいですね」。

編集長「NEO部の記事、毎日投稿するのはどうかな?」
NEO岸「それはちょっとむずかしいですね」
編集長「じゃあ週1投稿は?」
NEO岸「それもちょっとむずかしいですね」

やんわり断っても伝わらない人はたしかにいます。
しかし、たいていの日本人には通じる「ちょっとむずかしいですね」。
これ、英語で言えますか?

■difficult を使って断ると…?

ここでネイティブの意見を聞いてみましょう。
タクシー運転手のシミュレーションバージョンでどうぞ。

Q. 遠まわしに断りたいときには,difficult で通じるか。
あと10 分で大切な試験が始まってしまうのに,会場まで歩いて行ったのでは絶対に間に合いません。そこでタクシーを使うことにしたのですが,運転手さんに「10 分以内で行ってください」と言ったところ “It’s difficult to get there in 10 minutes.” と言われました。運転手さんは,以下の a),b) のどちらのつもりで言ったと思いますか。
a) 10 分で行くのは不可能
b) 10 分で行くのは簡単なことではない
c) a) と b) のどちらでもない

ネイティブの答えはこちら。

a5 b92 c3

圧倒的に b) ですね! 92%が b)!
b) を選んだ方の理由で多かったもののひとつがこちら。

「difficult には不可能という意味はない」

ご、ごもっとも…!
ぐうの音も出ません!
お断りフレーズ日本代表、見事に返り討ちです。
ちなみに、調査によると、日本人に同じことを聞くと8割近くが a を選択するそうです。

■NATIVEの意見

  • “Difficult” doesn’t equal “impossible” in English.(英語の difficult は impossible と同じ意味にはならない。英♂ 20 代)
  • He would have said impossible if it was impossible.(無理なら無理と言うはず。英♀ 20 代)
  • There is the implication that although it is possible, it is not easy to
    achieve.
    (可能ではあるけれども,簡単ではないというニュアンスがある。英♀ 10 代)
  • He thinks that it is hard and that he doesn’t want to promise you that you will make it there on time.(運転手は困難だと判断したので,時間内に着けるという約束はしたくないのだと思う。米♂ 20 代)
  • I’d be relatively encouraged by his response — i.e. I’d expect him to drive fast so that he could get there fast (and I might give him a big tip — in fact that might be what he wants by saying “It’s difficult.”)(このように言われたら少し期待を持つ。運転手は間に合うように急いでくれるだろうし,そうすれば僕もチップをはずむと思う。実際,この運転手の発言の意図はそこにあるのではないかとも思う。英♂ 40 代)
  • If the taxi driver believes there’s a chance of not arriving in 10 minutes, it’s necessary to warn you because he doesn’t want a dissatisfied customer who, in turn, may not give him (much of) a tip.(もしも運転手が10 分では間に合わない可能性があると判断したのであれば,乗客が不満を持たないように事前にそのことを注意する必要があると思う。もし不満な場合はチップをくれない場合もあるので。米♀ 30 代)
  • What it really sounds as though he is saying is, “I need a large tip.” to
    insure you get to your destination.
    (ここでの運転手の真意は,「時間までに目的地まで行きたいならチップは多めにいる」と言っているように聞こえる。米♀ 40 代)

「どうせ b なんでしょ。」と、記事の流れを読んでいたクレバーな読者のみなさんも、「チップはずんで」までは予想できなかったのではないでしょうか。

difficult だと断ったことにならず、逆に引き受けてもらえる前提で話が進んでしまうんですね。
うーん、ではなんて言ったらいいんでしょう? バーダマン先生に聞いてみましょう。

■教えて! バーダマン先生

英語で頼まれたことを断るときのコツってあるんでしょうか。

英語で頼まれごとを断りたいときは,はっきりと無理だと言い切ることが必要です。また,なぜ無理なのかの理由をつけるとぶしつけにもなりません。

そうそう、失礼にならないように言いたいんです!

A: Could you have this coat dry cleaned by tomorrow morning?
B: I’m sorry but that’s just not possible.
 A: このコート,明日の朝までにクリーニングをしていただけませんか?
 B: すみません,ちょっとそれは無理ですね。
A: Would you be able to take care of this job?
B: It’s impossible, I’m afraid. My schedule is tight as it is.
 A: この仕事,今日やっていただけませんか?
 B: 申し訳ないのですが,無理です。スケジュールがぎっしりなんです。

では、やれる可能性が少しあるときは、どんなふうに言うのでしょうか。

A: Couldn’t you do this job today?
B: It would be difficult, but I’ll give it a try.
 A: この仕事なんとかなりそうかな?
 B: ちょっと難しそうですけど,やってみます。

ふむふむ。
impossible と difficult をつかいわけつつ、理由や意図、気持ちを補足すると、正確に伝わりそうですね。

■今回の活動報告

というわけで、英語では遠回しには断れない、でも、失礼にならないようには断れるということがわかりました!
英語で頼まれたことを断るときは、not possible もしくは impossible を使いましょう。
I’m sorry but … や I’m afraid … などを使って気持ちを伝えるのがおすすめです。

それにしても、
It’s impossible.「不可能です」
この引き締まった響き、いいですねぇ。
遠回しに断っても伝わらない日本人用に、逆輸入してもいいかも?

みなさんもネイティブに伝わるか気になる日本語独特の表現があったら、ぜひNEO部に教えてくださいね!

記事中のデータ、NATIVEの意見について
旺文社刊行の『コアレックス英和辞典』に掲載されている主要なコラムの1つ「PLANET BOARD」に収録されたデータ及びそのためのアンケート調査から引用。調査は、成城大学社会イノベーション学部心理社会学科川村晶彦教授により、英語圏在住の英語話者約100人を対象に行われた。川村教授をはじめ、『コアレックス英和辞典』の編集に関わるたくさんの先生方の「ネイティブスピーカーが実際に使っている英語の実態を知りたい、伝えたい」という思いから、ネイティブのリアルなコメントを米・英、年齢・性別ごとに収集している。英語学習者のために行われた調査としては、調査項目数、回答者数の規模や母語話者の結果だけでなく日本人学習者の結果と比較検討を行っている点等からいって他に類を見ない貴重なデータ。
調査の詳細は以下の書籍を参照:Akihiko Kawamura, Lexical pragmatics : teaching English communication and pragmatic skills to Japanese learners, (Hituzi Syobo, 2018)

※NEO部では、『コアレックス英和辞典』に未収録の調査結果をご紹介することもあります。

NEO部とは
日本人の英語に対するネイティブの意見を研究する旺文社ココマナ編集部の部活。NEO は Native English Opinions の略。

NEO部顧問 ジェームス・M・バーダマン
米国テネシー州生まれ。ハワイ大学大学院でアジア研究専修、修士。1976年に来日し、以降さまざまな大学で教鞭をとる。早稲田大学名誉教授。中級レベルの英語で読める英語随筆をnoteにて連載中。

Vardaman’s Random Notes ~バーダマンの英語随筆~
https://note.com/vardamansnotes