今を生き抜く英単語 #1 内藤陽介 For The Post-Pandemic Era
2020年の初頭には想像もしていなかった世界が私たちの目の前に広がっています。
この「今を生き抜く英単語」シリーズは、私たちの考え方や生き方の転換が起こっている今、それでもこの世界を生き抜いていけるようなメッセージを、英単語を切り口に、さまざまな分野で活躍する著者から発信していただきます。
「コロナと共生する時代」のキーワード
新型コロナウイルス感染症が世界的に蔓延する中で、英語学習の世界にも大きな変化が訪れつつあるように思います。
これまでの学習動機には、受験や資格試験の他にも、海外旅行や海外留学、あるいは国際ビジネスの場でコミュニケーション能力を高めたいという思いがあったはずです。ところが、感染防止のために移動の制限や自粛が求められる中で、国際的な人の移動がにわかに活発になるようには思えません。
しかし、「コロナと共生する時代」を見据えて、いま国内で関連する英語ボキャブラリーを習得することは非常に重要です。コロナ禍を乗り越えていくことは、日本だけでなく世界共通の課題だからです。
まず、新型コロナウイルス感染症にまつわる基本的な語彙を見ておきましょう。
the new coronavirus「新型コロナウイルス」
コロナウイルス自体は以前から存在するもので、今回のウイルスが新型であることから new を加えます。同じく「新しい」という形容詞 novel を使って、the novel coronavirus とも呼ばれます。
COVID-19「新型コロナウイルス感染症」
coronavirus disease 2019「2019年に発生した新型コロナウイルス感染症」の略称で、WHOが命名しました。
pandemic 「(疫病の)世界的な大流行」
日本語でも「パンデミック」と呼ばれますが、似た名詞である outbreak「(疫病などの)発生」よりも規模が大きいものです。現下の状況から、the pandemic だけで「コロナの世界的な蔓延」という意味で通じます。
infection「感染」
動詞は infect「感染させる」、形容詞は infected「感染した」です。別の形容詞 infectious には「うつりやすい」「つられてしまうような」という意味もあるので注意が必要です。
incubation period「潜伏期間」
incubation は「培養」ですが、ウイルスが増殖して発症に至るまでの期間という意味で「潜伏期間」と訳されています。
quarantine「検疫・隔離(期間)」
検疫といえば空港などでの動植物の持ち込み検査を連想しますが、基本的な意味は、感染を防ぐために「隔離すること」です。
さて、ここからが本題です。「コロナと共生する時代」のキーワードとなる日常生活習慣や、私たちの働き方にまつわる英語表現をご紹介します。
new normal「新しい生活様式」
いま提唱されている「新しい生活様式」ですが、英語では new normal と呼ばれています。「新常態」や「新たな日常」などとも訳され、今までの常識が大きく変化し、新たな基準が生まれるほど大きなインパクトを与える場合に使われる表現なのです。
three C’s「3密」
感染防止のため「3密」、つまり「密閉・密集・密接」を避けましょう、と繰り返し言われていますが、英語では「3つのC」と呼ばれています。この3つのCとは、次のようなものです。
● closed spaces 密閉された空間
● crowded places 密集した場所
● close-contact settings 密接した状況
日本語のキャッチフレーズである「3密」を英訳した苦心の跡が見えますが、実際に英文ニュースでも使われています。世界保健機関(WHO)も three C’s に注目し、7月18日にはSNSを通じて「3つのCを避けよう」と呼びかけました。
social distancing「ソーシャルディスタンス」
日本語でもカタカナでおなじみになりましたが、英語では動名詞で social distancing とするのが通常です。「感染防止のために人との距離を確保すること」という意味です。
cough etiquette「咳エチケット」
日英がそのまま対応しています。「咳」は cough、「エチケット」は etiquette です。
disinfection of hands and fingers「手指消毒」
こちらも直訳で通じるでしょう。hands and fingers「手と指」の disinfection「消毒」です。hand と finger が複数形であることに気を付けてください。
次に、「新しい生活様式」の下では、生活習慣の衛生面だけでなく、働き方についても工夫が求められています。その代表格が「在宅勤務」や「時差出勤」です。
telework「在宅勤務」
「在宅勤務」の英語といえば、まず「テレワーク」を思い浮かべるでしょう。英語では telework または teleworking です。
他にも「在宅勤務」の英語表現はいくつかあります。
● telecommuting 在宅勤務・テレコミューティング
commute は「通勤する」ですから、直訳では「遠隔で通勤」となります。もちろん物理的な通勤ではなく、コンピューターを使って家から仕事をすることです。
● work remotely 遠隔で働く
remotely は「遠隔で、リモートで」という副詞ですから、「在宅勤務する」という意味になります。
● work from home 家から働く
自宅からPCで仕事をするので、「在宅勤務する」にぴったりの平易な英語表現です。
staggered work hours「時差出勤」
在宅勤務と並んで、今後の働き方のカギとなるのが「時差出勤」ですが、この英語表現を理解する上でポイントとなるのが、こちらの動詞です。
● stagger ずらして配置する・交互に配置する
あまりなじみのない単語かもしれませんが、重ならないようにずらして配置することから、staggered 「ずらした」 work hours「就業時間」で「時差出勤」となるのです。staggered office hours とも呼ばれます。
最後になりますが、「コロナが収束した後の時代」は、the post-pandemic era と呼ばれます。post- は接頭辞で、「~後の」という複合名詞を作ります。個人的な印象としては、post- は postwar「戦後の」に見られるように、大きな出来事との結びつきを連想します。今回のコロナ禍も、後世に残る大きな出来事として世界の歴史に記されることでしょう。
英字紙『ジャパンタイムズ』元報道部長
京都大学法学部、大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。外大時代に米国ウィスコンシン州立大に留学。ジャパンタイムズ記者として環境省・日銀・財務省・外務省・官邸などを歴任後、ニュースデスクに。これまで20年以上英文ニュース業務にかかわる。NHK英語語学番組の監修や、他のメディアに執筆も行う。
旬な時事英語を解説する「内藤陽介のサイバー英語塾」で情報発信中。