「ジャーナリング」というメンタルケアの方法をご存じですか? 長沼奈絵子先生と一緒に、英語でのジャーナリング×ポジティブ心理学の世界をのぞいてみましょう。英語で書くからこそ、自分の心に向き合えるこの方法、みなさんの生活にも取り入れてみませんか。

「しなやかマインドセット」を育てよう

Welcome to the third episode of Journaling Journey series!
前回は、「3GT(3Good Things)」を取り入れた英語のジャーナリングについて紹介しました。今回は「しなやかマインドセット」の紹介と「Not Yet(まだ~ない)の精神」を英語のジャーナリングに取り入れる効用などについてお話ししていきます。もしこのコラムを読んでいる方で、うまくいかないことがあったり困難に立ち向かったりする場面で、「どうせ~」と口にしてしまう方がいらっしゃれば、それは今回お話しするマインドセットの影響かもしれません。

■2つのマインドセット:Growth Mindset と Fixed Mindset

「マインドセット」という言葉を聞いたことがありますか? スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック博士が長年の研究を経て提唱し、2006年の著書で広く知られるようになった概念で、日本語では『心のあり方』と訳されています。長年のさまざまな研究の結果、我々が日々を過ごすにあたって、マインドセットの持ちようによって物事の見方が根本的に変化したり、人生が豊かになったりする可能性が高まるとわかってきました。キャロル・ドゥエック博士は、「しなやかマインドセット(Growth Mindset)」と「硬直マインドセット(Fixed Mindset)」の2種類のマインドセットがあるとしています。この2つのマインドセットの一番大きな違いは、能力や才能のような基本的資質は、努力によって伸ばすことができると信じている(Growth Mindset)か、生まれつきのものだから変化するものではないと信じている(Fixed Mindset)かです。ドゥエック博士は、この心のあり方の違いが我々の人生を大きく左右する鍵になると主張しており、しなやかマインドセットを持つことで、失敗を学びの機会だととらえたり、フィードバックは自らの成長に必要だと価値づけしたりすることができると結論づけています。また、諦めないで挑戦を続ける気持ちも育まれると言われています。

■しなやかマインドセットを育てるには?

では、しなやかマインドセットを育てるにはどうすればいいのでしょうか? まず何よりも大切なのが「脳は筋肉と同じで使えば使うほど成長する」と信じることだ、と言われています。最近の脳科学の研究により、学習や経験によって神経回路網に新しい結合が生まれ、結果として脳が「成長する」ことが証明されてきました。しなやかマインドセットを育むには、そのことを信じた上で「リフレーミング(Reframing)」をすることが助けになります。「リフレーミング」とは、物事のフレーム(枠組み)を別の視点からとらえて、出来事や状況の解釈や意味づけを変えることです。半分まで水の入ったコップを「もう半分しかない」と考えるか、「まだ半分も残っている」と考えるかが、最もよく知られたリフレーミングの例です。「まだ半分も残っている」と考えることが「しなやかマインドを育てる」ことにつながります。

■「Not Yet(まだ~ない)の精神」を英語のジャーナリングに取り入れよう

リフレーミングをする際に「Not Yet(まだ~ない)の精神」がとても役に立ちます。ドゥエック博士が提唱する「Not Yet(まだ~ない)の精神」は、今うまくいかなかったことやできていないことは、自分の能力不足や才能がないということではなく、ただ発展途上の成長のプロセスにいるだけだと、しなやかマインドセット(Growth Mindset)で考えるために大切な概念です。この考え方を英語でのジャーナリングに取り入れてみることで、その日にうまくいかなかったことやできなかったことを自己批判するのではなく、よりポジティブな視点でとらえることができる助けになります。わかりやすい例を挙げてみます。

硬直マインドセット(Fixed Mindset)だと…
I could not answer questions well in my presentation today. I am not suitable to be a project leader. I should not lead the project team anymore because I am never good enough.
「今日のプレゼンでは質問にうまく答えられなかった。自分はプロジェクトリーダーに向いていないんだ。どうせ自分は力不足だから、もうチームを引っ張るべきではない」

しなやかマインドセット(Growth Mindset)だと…
I could not answer questions well in my presentation today, but it just means that I am NOT skilled at answering unexpected questions YET. I will reflect on today’s presentation and practice responding to various questions. I can do it!
「今日のプレゼンでは質問にうまく答えられなかったけれど、それは想定外の質問に答える技術がまだ身についていないというだけだ。今日のプレゼンを振り返って、色々な質問に答える練習をしよう。自分ならできる!」

上の2つの例を見比べると、何が起こったかという「事実」の部分は同じですが、その後の「事実をどうとらえるか」が違うのがわかるでしょうか。上の例では、自分はリーダーとして向いていない、自分にはリーダーの資質はない、と自己批判的な内容になっています。下の例では「Not Yet」を英文に織り込むことで「まだそのスキルがついていないだけ」だと書いています。またその後に「じゃあこれからどうする?」という次のステップ、これからのアプローチが追加されています。

実践編:Let’s Write “Not Yet” Journaling in English!

他にも「Not Yet」を入れ込んだジャーナリングの例を挙げてみます。
例えば次のような状況だった場合、あなたならどのように書きますか?
英語でジャーナリングと「Not Yet」を掛け合わせてみたいなと感じているようであれば、下のような問いかけが役に立つかもしれません。

  • ★今日「できなかった」「うまくいかなかった」と感じたことは何ですか? それを「まだ~できてないだけ」「まだ~していないだけ」と言い換えるとどうなりますか?
  • ★うまくいかなかったことやできなかったことを思い返して、そのやり方について考えてみましょう。まだやってみていないやり方や別の方法はないでしょうか?
  • ★まだ「とてもうまくいった」とは言えないことでも、少しでも「前よりよくなった」ことは何ですか?
  • ★まだできていない状態でも、少しでもそこから学んだことはないでしょうか? それはどんな学びですか?

実際に考えてみてから、続く「硬直マインドセット(Fixed Mindset)」と「しなやかマインドセット(Growth Mindset)」のジャーナリング例を参考にしてみてください。

  • 状況1:今週は一度もジョギングに行けなかった。
  • [硬直マインドセット(Fixed Mindset)]
  • I could not go jogging this week even once. I always give up everything after a few days. I am hopeless.
  • 「今週は一度もジョギングに行けなかった。私はいつも何をやっても三日坊主だ。本当にダメな人間だな」
  • [しなやかマインドセット(Growth Mindset)]
  • I could not go jogging this week even once. This is not because I do not have willpower. I have NOT found a good schedule to suit me YET. I will try a different way next week. I am going to jog in the evening, not in the morning. Maybe that schedule will suit me better!
  • 「今週は一度もジョギングに行けなかった。でもこれは意志が弱いからではない。自分に合うスケジュールをまだ見つけられていないだけだ。来週は違う方法を試してみよう。朝ではなく夕方に走ってみるつもりだ。もしかしたらそのほうが自分に合っているかも!」
  • 状況2:今日の英会話の授業では、言いたいことを表現できなかった。
  • [硬直マインドセット(Fixed Mindset)]
  • I could not express what I wanted to say during the English conversation lesson today. I have been studying English for a long time. Maybe I have no talent in speaking English. I should just give up and quit learning English.
  • 「今日の英会話のレッスンでは、言いたいことをうまく表現できなかった。もう長いこと英語を勉強しているのに。私には英語を話す才能がないのかもしれない。もう諦めて英語の学習をやめるべきだ」
  • [しなやかマインドセット(Growth Mindset)]
  • I could not express what I wanted to say during the English conversation lesson today, but it means that I have NOT practiced communicating my ideas in English enough YET. I should review just three phrases that I could not say today and try to use them next time!
  • 「今日の英会話のレッスンでは、言いたいことを表現できなかった。けれどそれは、英語で自分の考えを伝える練習がまだ足りていないということだ。今日言えなかったフレーズを3つだけ復習して、次回使ってみよう!」

いかがでしたか? ぜひ、「Not Yet」を用いて、次のステップやこれからのアプローチにつながるようなジャーナリングをしてみてください!

今回は「しなやかマインドセット」と「Not Yet」ジャーナリングについて紹介しました。これまでの記事でもお話ししてきたように、ポジティブ心理学では「視点の変換」がとても大切です。英語での「Not Yet」ジャーナリングが、自分の状態を「しなやかマインドセット」でとらえ直すきっかけとなってくれればとても嬉しいです。
If you feel you cannot write in English well, just remember you are NOT ready to do so YET! Enjoy your journaling journey and keep practicing!
(もし「うまく英語で書けない」と感じても、思い出してください。まだその準備が整っていないだけです! ジャーナリングの旅を楽しみながら、練習を続けていきましょう!)

参考文献:
キャロル・S・ドゥエック (著) 今西康子 (翻訳). マインドセット「やればできる! 」の研究. 草思社.

●おまけ 
キャロル・ドゥエック博士がしなやかマインドセットについて語った動画は世界中で視聴されていますので、興味がある方は是非ご覧ください。
Carol Dweck: The power of believing that you can improve | TED Talk