Journaling Journey
~英語で綴り、心を整える~
#1 ジャーナリングとウェルビーイング

「ジャーナリング」というメンタルケアの方法をご存じですか? 長沼奈絵子先生と一緒に、英語でのジャーナリング×ポジティブ心理学の世界をのぞいてみましょう。英語で書くからこそ、自分の心に向き合えるこの方法、皆さんの生活にも取り入れてみませんか。
英語だから、感情を客観視できる
Nice to meet you, everyone! Thank you for your interest in my column, “Journaling Journey.”
国際教養大学(AIU)准教授の長沼奈絵子です。2004年4月の開学からAIUで英語を教えています。2019年からはポジティブ心理学や脳科学の勉強を始め、その学びを自分の授業に生かし、学生支援に役立ててきました。
このコラムでは、
Journaling in English(英語でのジャーナリング) × ポジティブ心理学 = ウェルビーイング向上
というテーマについてお伝えします。
まずは「ジャーナリングって何?」「ポジティブ心理学って何?」「ウェルビーイングって何?」「どうして英語で書くとウェルビーイングの向上につながるの?」ということについて説明していきます。
■そもそもジャーナリングって何?
ジャーナリング(journaling)は、英語の「日記・日誌」や「機関紙」を意味する journal から派生した語で、単純に日本語訳すると「日記を書くこと」という意味になります。しかし、いわゆる日本語の「日記」と、ここで紹介するジャーナリングとでは、書く内容が少し違います。
一般的には、日記は「出来事の記録」でその日に何があったのかを書き留めることが中心になります。そのため、その日に起こったことを時系列で書くことが多いかと思います。ジャーナリングをするときにも、その日に何があったのかを書きますが、それに加えて、その時自分がどう思っていたか、どうしてそう思ったかなど、「自分の心と向き合い、自分のことばで書く」ことが一番大きな違いだと言えます。それが感情の棚卸しの助けになり、また、思考も整理されます。
■ポジティブ心理学って何?
心理学の分野の1つである臨床心理学は、第二次世界大戦から帰国した兵士たちのPTSD(心的外傷後ストレス障害)治療のために確立されたと言われています。つまり、健康ではない人の状態を「−(マイナス)から0(ゼロ)」に戻すのが目的でした。一方、マーティン・セリグマン博士が1998年に提唱したポジティブ心理学では、どんな人も「+(プラス)」、つまり「幸せな人生」を送れるようにすることを目指しています。
ポジティブ心理学で特に大切だとされているのは、「すでにあるものを見る視点の変換」です。人間には、「ネガティビティ・バイアス」といって、ポジティブな出来事・情報よりもネガティブな出来事・情報に注意が向きやすく、記憶にも残りやすいという本能が備わっています。これは危険を察知して自分の身を守るためのもので、人類はそのおかげで生き延びてこられたとも言えるでしょう。ただ、この本能のせいで悪いことの方に目が行きがちになり、負の感情がより強く心に残ってしまいます。また、人間は「選択的注意」という脳の機能によって、必要と判断された情報だけに注意が向くようになっています。楽しいことがたくさんあった日でも、たった1つのネガティブな出来事がより強く心に残ったことはありませんか? それは人間の脳に備わった機能のせいであって、私たち個人の性格や考え方のせいではありません。
つまり、日常にある「あたりまえ」を、視点を変換して認識することが幸せにつながるというのが、ポジティブ心理学で最も大事だとされている点だと言えます。
■ウェルビーイングって何?
「ウェルビーイング」ということばを目にすることが最近多くなったと感じていませんか? WHO(世界保健機関)によると、『病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態』がウェルビーイングである、と定義されています。他者と良い関係性を持ち、心身ともに健やかと感じられる状態とも言えるでしょう。
■英語でのジャーナリングがどうしてウェルビーイングの向上に役立つの?
さて、「ジャーナリング」「ポジティブ心理学」「ウェルビーイング」がそれぞれどういったものか、ざっくりと掴んでいただけたでしょうか。
ジャーナリングは、母語である日本語で行ってもメンタルケアにつながると言われていますが、外国語である英語で行うことは、よりウェルビーイングの向上に役立ちます。
その理由の1つとして、英語で書くことで「自分の感情から距離を置きやすい」ことが挙げられます。負の感情をそのまま書き起こすことで気持ちがすっきりする人もいますが、英語というフィルターを通すことで、より冷静に自分の感情と向き合うことができます。例えば、上司に叱られた日に、日本語で以下のように書いたとしましょう。
なんでみんながいる前で大きな声で怒鳴られないといけないの? なんでそんなひどいことするの? 私が何したっていうの? 悔しくて泣けてくる。
一方、これを英語で書いてみると以下のようになります。
My boss shouted at me in front of everyone today. Why did he do such a terrible thing? What did I do? I feel angry and sad. I feel like crying.
日本語で書くことは直感的にできる行為なので、より生々しく感情的になりやすいです。そのため、それを目にすることで負の感情がフラッシュバックする可能性も高まります。一方、英語では「誰がどうした」を客観的に示したり、「自分がそれに対してどのような感情を持っているのか」「どうしてそう思ったか」を書いたりすることになります。外国語を使おうとすると脳内の論理を司る部分が使われるため、より第三者目線で自分を見るきっかけになるのです。
また上の例では、例えばほかに I feel sad because he shouted at me today. という言い方もできます。この場合、感情を先に表現して、その後に理由を述べていますよね。このように、英語の言語構造に従って文を書こうとすると、日本語よりも分析的な書き方が必要になる傾向があります。そのため、「何が、自分が持つ感情を引き起こしているのか」を考える機会になります。こうやって書くと、なんだか自分のことではなく他人事のような気がして、少し冷静な気持ちになれるかもしれませんね。
実践編:1文から始めてみよう!
■まずは1文から英語で書いてみませんか?
ここまでの説明で、「ポジティブ心理学×英語でジャーナリング」のかけ合わせがウェルビーイングの向上に貢献できるかも、と感じてくれた読者の皆さんには、まずは1文の英語でジャーナリングを始めてみてほしいなと思います。
下記のような表現から書いてみるのはどうでしょうか?
- ~感情と理由を述べる例文集~
- I feel happy because I ate delicious pancakes for breakfast.
「私は幸せです、なぜなら朝食においしいパンケーキを食べたからです」 - I feel excited because I’m going to a concert this weekend.
「私はわくわくしています、なぜなら今週末コンサートに行くからです」 - I feel sad because it’s raining and I can’t go for a walk.
「私は悲しいです、なぜなら雨が降っていて散歩に行けないからです」 - I feel angry because the train was delayed this morning.
「私は怒っています、なぜなら今朝電車が遅れていたからです」 - I feel tired because I stayed up late watching a movie last night.
「私は疲れています、なぜなら昨晩映画を見ていて遅くまで起きていたからです」 - I feel anxious because I have a big presentation at work tomorrow.
「私は心配です、なぜなら明日仕事で大きなプレゼンテーションがあるからです」
書くときのコツの1つ目は、because の後には、<主語 + 動詞> の短い文章をそのまま置くだけでOKということ。そしてもう1つは、最初は I feel happy や I feel sad など、一言だけでもOKということです。まずは自分の気持ちを「英語にする」という習慣を楽しんでみましょう。
最近はインターネット検索やAIなどの便利な機能を利用して、英語表現をどんどん調べられる時代になりました。よく自分がとる行動を英語ではどう表すのか、ぜひ調べてみましょう。そうやって調べた表現を集めて、単語帳やフレーズ集などを作っていくと、英語でジャーナリングを続ける助けになりますよ。
次回は、「3つのよいこと(3 Good Things)」を取り上げます。
I hope you will enjoy journaling in English!
See you next time!

国際教養大学 英語集中プログラム 准教授
1975年秋田県生まれ。アメリカ・ミネソタ州立セントクラウド大学で英語教育学・第二言語習得・応用言語学を学ぶ。修士号取得後、秋田に戻り、2004年から現在まで国際教養大学(AIU)英語集中プログラム(EAP)で教鞭を取る。2019年からは学生部長という立場で学生と関わり始めたことをきっかけに、ウェルビーイングの概念を教育に取り入れることを目指し始める。ニューヨークライフバランス研究所でポジティブ心理学を学び、ポジティブ心理学コンサルタント®の資格を得て、学生のウェルビーイングを高める授業づくりなどに取り組む。