NY発 Survival English #1 Men’s Shirts? or Women’s Shirts?

ニューヨーク在住18年の著者が、大都会を “Survive” する中で体得した英単語・フレーズをご紹介! どうしてその言葉が必要なのか、その背景にも迫ります。
あなたがほしいのは、「男物?」「女物?」
●Survival English とは?
“Survival” この単語からあなたは何をイメージしますか? 「サバイバル」とカタカナ語で使われることもありますね。意味は「生き延びること、生き残ること」です。 では、コラムのタイトルでもある “Survival English” というと、どんなイメージでしょうか? 直訳すると、「生き残る(ための)英語」です。一般的には、「日常生活で使う必要最低限の英語表現」を意味し、「シンプルな単語や言い回しで英語を母語としない人にも伝わりやすい表現」を指します。
このコラム “New York(NY)発 Survival English” では、多種多様な人種・価値観を持つ人間が共存するニューヨークでだからこそ使われる単語やフレーズを紹介していきます。これまで見聞きしたことのないものもあるかもしれません。しかし、私が実際にニューヨークで Survive する中で出会った言葉には、この街だからこそ生活に根付いた単語や表現があります。私が日々体感して学ぶ Survival English をここでぜひ、皆さんともシェアしていきたい次第です。その Survival English から、自分が生きる社会はどうなっているか、そして自分の目にはそれがどう映り、どう感じるのかを改めて考えるきっかけになれば幸いです。
●コロナ禍で出会った性に関する英語の種類
2020年のパンデミック・コロナ禍のニューヨーク。そこで出会い衝撃を受けた単語・表現があります。感染症ピーク時の4月には、新型コロナウィルスへの感染で連日約800人が亡くなっていました。それまでこの街で数々の危機は体験してきたものの、ここまで真剣に「生き残らなければ」と思ったことはありませんでした。そんな中、市が運営する新型コロナウィルスの抗体検査に行った際、会場で手にした問診票の質問内容(以下)に、私は目を見張りました。

※画像は1行目の “Your Sexuality” が欠けています。
- Your Sexuality(あなたの性別)(注:生物学的・解剖学的側面においての性)
ー Male (男性)、Female(女性) - Current Gender(現在の性別)(注:社会・文化的においての性認識)
ー Man(男性)、Woman(女性)、Transgender Man(トランスジェンダー男性。女性→男性)、Transgender Woman(トランスジェンダー女性。男性→女性)、Genderqueer(ジェンダークィア)*1、Other(その他) - Sexual Orientation(性的指向)
ー Gay(同性愛者)、Straight(異性愛者)、Bisexual(両性愛者)、Something else/not sure(それ以外/不明) - *1 性別、性自認、性的指向を決めず(社会の枠に当てはめず)に生きる人のこと。
「性に関わることでこんなにも質問、回答の種類があるのか!」と、驚きを通り越して感心したほど。普段英語で性別を表現する語としては、Sex(Sexuality)、Gender があることは知っていましたし、私自身、自分の性を伝える際は Female、Woman のどちらも使い分けていました。日本ではどうでしょうか。現在日本で性別を問う質問への選択肢は1種類で、「男性/女性/その他」ではないでしょうか(いまだに「男性/女性」の2択が主流かもしれませんが、最近「その他」が加わっているところもありますね)。
一方、ニューヨークでは、生まれた時の性と現在認識している性が異なっている人がいることも、性的指向が人さまざまであるということも、広く認識されています。そもそも、生まれ育った国、人種、母語が異なる人間が共存している社会なので、「常識が1つではない」のです。上記の Current Gender に対しての回答項目を見るだけでも、いろいろな性自認で生きている人が可視化されていることを実感します。バラエティに富んだ回答に加えてさらに “Other”(その他)の項目があることは、少数派が受け入れられる社会であることを示しているようにも思います。
●多様性社会のため私が実践していること
今でこそニューヨーク社会の表向きでは常識となった Diversity(ダイバーシティ、多様性)や Inclusion(インクルージョン、包括性)、Gender についての認識ですが、これを実践するには実にさまざまな配慮が必要であることも事実です。
現在私は、ニューヨークシティ・マラソンをはじめとした市内でのランニングレースを運営する非営利団体・New York Road Runners(NYRR)のフロントスタッフとして働いており、日々多くのランナーと向き合っているのですが、その中で特に意識していることがあります。
例えば、キッズレースの登録をサポートするとき。小さなこども(3−4歳)が登録時に親と一緒にやって来ると、私はまず親にこどもの名前を聞きます。“What is your kid’s name?” と。その見た目から、Boy か Girl かの想像はつくのですが、相手が定義する前に、“What is his name?” や、“What is her name?” と、こちらで「男の子」か「女の子」かを決めないようにしています。そこで初めて、「Xavier」「Mikhail」「Yujin」「Alice」などの具体的な名前が出てくるので、続けて “What is Alice’s gender identity?” と Gender を確認します。その名前や外見から相手の Gender を決めつけることは避けるようにしているのです。
さらに、レースが終わり参加品のTシャツを取りに来るランナーの対応をする際にも気をつけていることがあります。Tシャツのデザインは Men(男性向け)か Women(女性向け)の2種類で、サイズは Men がS・M・L・XL・XXLの5種類、WomenがXS・S・M・L・XL・XXLの6種類あり、ランナーの性別に関わらず、デザインとサイズの選択は自由です。私はランナーにシャツを渡す際にまず、“Which shirt would you like?” と確認します。ここで、相手のランナーが “Men’s Small, please.” や “Women’s Large, please.” など、シャツのデザインとサイズを明確に答えてくれると、スムーズにシャツが渡せて終了します。
しかし困るのが、“Small, Please” や “Large” など、サイズだけを答えてくるパターンです。その場合私は続けて、“Men’s shirt? or Women’s shirt?” と聞き返します。
相手の見た目が Men でも Women でも、私は必ずこの質問を聞くようにしています。一番の理由は、「外見で Gender を判断できない、すべきでない、したくない」からです。
私の質問 “Men’s shirt? or Women’s shirt?” に対して、“I don’t look like a Man??”(男に見えない?)と露骨に嫌な顔をして返してくる人もいれば、“I’m a woman.”(私は女性です)とだけ答える人もいます。“Stupid Question!”(馬鹿げた質問だ!)と言い放つ人もいました。それらの人々には、「私の外見から性別が分からないの?」という気持ちがあるのでしょう。それは理解しますが、前述のとおり、私は「外見で Gender を判断できない、すべきでない、したくない」という理由でこの質問をしているのだと相手に伝えて、Surviveしているのです。
●自分がマイノリティになって気づく
ニューヨーク=人種のるつぼと言われ、実際にそれを認識して生きてきたつもりでしたが、この街の多様性を受け容れる土壌を本当の意味で体感したのは、後にも先にも、前述の問診票との出会いです。同時に、コロナ禍というタイミングが重なり、自分のマイノリティへの意識、そこに対する社会・組織の対応や表現への興味・関心がより強くなったのも確かです。多くの人種が共存しているニューヨークとはいえ、全体で見れば「東アジア人 > 日本人」の私はマイノリティのグループに入ります。優劣ではなく事実として自分自身がマイノリティであることを体感しているからこそ、性的マイノリティやさまざまな分野でマイノリティが存在していることが想像できます。
多様性が存在し、多くの人がそれを維持していこうと働きかけて生きている、それこそがニューヨークの持つダイナミズムであると私は思うのです。今回紹介した性にまつわる表現の数々。辞書からでも参考書からでもなく、街中・ストリートで出会う表現だからこその Survival English をこれから、このコラムで発信していきます!

ニューヨーク観光ガイド・プロジェクトコーディネーター・編集&ライター・New York Road Runners(NYRR)フロントスタッフ
神奈川県藤沢市出身。日本大学 芸術学部 放送学科卒業後、一般企業での総務経理、編集プロダクションでの編集・執筆、旅行代理店での手配・添乗業務を経て2007年単身ニューヨークへ。以降、フリーランサーとして活動。FIFA W杯、オリンピック、ワールドマラソンメジャーでの現地帯同をメインにスポーツツーリズムにも従事。マラソンランナー。NYRRのスタッフとして世界最大のマラソン「ニューヨークシティ・マラソン」の運営に関わる。「好きを仕事に」を自分へのスローガンとし、ニューヨークでサバイバル中。